飛ばすつば
加賀美の顔色を見た金城は面白そうに笑った。
「加賀美って姉貴に似てるな。正義感もあってさ、忠告をしたりするんや。ちょうどええ、警視庁に行って姉貴に会うか?」
「いいんですか?」
「かまへん。会社におってもしょうもないし、加賀美は今日は収穫なしかもしれへんな。帰り際には飲みに行かへんか?」
加賀美はその言葉にうなずいた。彼の少しこぼれた笑みにはうれしさもこぼれていた。警視庁に行くことを取り付けたのだ。金城の姉は警視庁に勤めているとなると刑事にでもなっているのだろうかと思ってしまう。
「どうせあったところで忠告されるんや。下手なことをすんなってな。」
「そうなんですね。」
「まぁ、部長にいうって来るから待っておいてな。」
休憩スペースでいなくなった金城のことを思った。父親を殺した人を憎いと思ったことがあるだろう。それでも時を経て済むことなんてないのだと思ってしまうのだ。空になった缶をゴミ箱に捨てていると通りがかった社会部の新人らしき人がつぶやいた。
「金城さんが託すなんて珍しいし、任せているなんてなかなかしないのに・・・。」
声を聴いて彼女に問いかけると縦にうなずいた。話を聞くと記者クラブにいるカメラマンを入れるように言ったのは金城であって、諏訪にもかなりお願いをしたらしい。根負けをしたのは諏訪のほうだったのだ。納得することができないと記者クラブに入れないとも言われているらしいがそうでもないのだ。
「腕を認めればですよ。だって加賀美さん、会長賞を取っているじゃないですか。文化部と言えども認めるしかないんですよ。部長だってそうでしょう。相沢みたいな奴が一番社会部にとってお荷物だったんですよ。」
捨て台詞を言っていなくなってしまった。彼女は社会部でかなりの腕利きなのだろうかと思ったが、憎まれ口をたたいている姿を見るとそうでもないのかもしれない。相沢は文化部に飛ばれたのを見て下に見ているのかもしれないと思った。事件を追っていればいいってものじゃないことを知らないのだとも思ったのだ。金城が休憩スペースに来た。
「社会部において絡まれてはいけない人間に絡まれていたな。あいつは口ばかりで事件にについても聞かれへんから。地方に飛ぶことになるのも決まってるんや。それで負け惜しみで言うねん。」
さっき、話を聞いた彼女は事件が起きて被害者遺族に感情を寄せることが多く、加害者かどうか決まっていない人でさえもたたく記事を書いて載せられないことも多いのだといった。デマでも飛びつくことが多くなってしまうのだろうから。地方で追うこともいいじゃないかといって飛ばすことになった経緯がある。