流れる音
加賀美は会社への出勤時間になったため、パソコンから目を離した。会社からも近い場所にしておいてよかったと思った。徒歩で歩いているとスマホを熱心に見つめている若者を見つけた。周りが見えていないようになっているのだとも思った。加賀美は会社につき、改めて自分の席へとついた。諏訪の表情がやけに重苦しい感じがあった。隣の人物に声をかけた。
「諏訪さん、どうしたんですか?」
「いや、金城さんがそろそろ警察に見張られるかもしれないから会社にいるようにさせてくれって言ったんですよ。今でも記者クラブにいたベテランもいるから代理をたててもいいと思っているんですけど、そうなると逆に疑われることになってしまうって困っているんです。」
「そうなんですね。」
加賀美はそう言って諏訪のほうへと足を向けた。すると、諏訪は晴れない顔を加賀美に寄せているようだった。
「諏訪さん、昨日ブラックリストにおいて卜部恭介の名が上がりました。模範囚ということもあって仮釈放になるはずです。そのことを伝えたまでです。」
「やっぱり、君は期待通りのことをするね。金城から聞いたよ。須藤に会ってきたんだって。そこでも情報があるんじゃないのか?」
問いをかける時の顔は記者だった時のハイエナのような顔つきになった気がした。金城から話は伝わっているのだと知ってかなり動きやすくなっている。
「ジャッジマンというペンネームを使っている人物を警視庁は疑っています。ですが、海外のサーバーを使っていることもあってか手に負えないみたいです。・・・ネットカフェで聞いたんですが、大学生によると弁護士じゃないかということです。」
「そうか。引き続き調べてくれ。・・・期限があることも知っている。後悔がないようにしてくれよ。」
「はい。」
加賀美は金城のことを思うとなんだかとも思ってしまう。周りを見ると金城が席で優雅に座っていた。彼が顔を向けると少しだけ笑顔を浮かべた。記者クラブでは情報がないかと走り回っている部分もあるのかもしれない。
「金城さん、2人で話しませんか?」
「構わんよ。何処がいいんや。」
加賀美が戸惑っていると金城は休憩スペースに行くことになったのだ。そこには自販機が充実しているのだ。昼休みになると人があふれる場所なのだが、あまり口外できないことを話すときに使われることも多いのも知っている。金城はベンチに座る前に缶コーヒーを2本買った。
「異動してすぐの奴に買うたことはあんまないな。」
「すいません。」
「謝らんでええ。」
そういって金城は寂しそうな顔をして笑った。




