明かすべきこと
加賀美は金城に別れてからすぐに黒岩に会うために動いた。金城の晴れやかな姿が印象的だった。彼の中にあった何かが雲さえも晴れているのだと思った。警視庁の近くにいた人に声をかけて、黒岩に会わせてほしいと頼んだ。
「いいですけど、弁護士か何かですか?」
「違います。住職です。」
「それでしたら会えないですね。何か渡すものがあるんですか?」
そう答える人の後ろの人が分かったのか、肩をたたいた。振り返った時にその人は内容を聞くとはっとした顔をした。
「すいません。加賀美幸信さんですか?」
「俺は違いますが、加賀美幸信は俺の父親です。」
「やっぱりそうなんですね。お世話になってます。それでしたら特別に会ってもいいですよ。加賀美さんでしたら許可は得ておりますから。最初に対応したものが失礼を申しました。すいません。」
再び謝罪をしたのだ。大げさなくらいだったので、加賀美は驚いてしまった。幸之助はそれほどまでに警視庁に貢献したとされているのだとしみじみ思った。刑務所に入った人間に会うことは簡単なことではないと思うのだ。案内されるがままに向かうとコンクリートに包まれた質素な部屋に連れていかれた。アクリル板に狭まった感じがあったのだ。
「お待ちください。」
そういうと対応をしてくれた人はいなくなってしまった。黒岩は何処かで恨んでいるのだろうか。加賀美が記事を書いたことで人生が狂ったとでもいうのだろうか。刑事に連れられてきたときに加賀美を見る目は何処か穏やかだった。
「まさか会っていただけるとは思いませんでした。」
「いいえ、俺も何処か一瞬でも貴方が悪いと思ったことが間違いだと思ったんです。親父の事件を裁こうとしたわけでも追いかけていたわけでもないのに・・・。」
「そうですが・・・。俺が今日、来たのは全ての事件の発端の家族からの手紙です。読んでほしいんです。」
隣にいた刑事と思しき人物に着物から手紙を出した。それからアクリル板へと渡しているのが見えた。中身をきっと確認するのだろう。事件の計画でも書かれていては困るからだろうから。黒岩は受け取ると読みだした。そこにはきっと事件の犯人とそのことに対する謝罪が書かれているのだろう。
「彼は俺のことをバカにしているのですか?謝罪としているわけにはぐちゃぐちゃな文字が連なっているんですけど・・・。」
「黒岩さん、卜部良助は彼は右半身に麻痺が残っているんです。それで書いていることもあって読みづらい部分があるのかもしれません。でも謝罪の気持ちは確かです。」
「わかっています。ほとんどが謝罪しかありませんから。」
黒岩もきっと大きな声で言えない立場であることが分かっているから言わないが、吐き出せないものもあるのだろう。これが全ての事件の結末なのだと加賀美は思った。