晴れやかな歌
仁はそのままの勢いをもっていくことにした。同じ着物を着ているのに気持ちが何処か違うような気がした。卜部良助の仲介役になっているが、黒岩にも思うことがあるだろうから、安易な気持ちで渡しては駄目な気がしてならなかった。刑務所とは違う場所にある拘置所に入らせてもらえるかすらわかっていない。とりあえず、警視庁を目指した。バスや電車を乗り継ぐことは苦ではないのだ。揺られているだけで終わるわけでもないのだが・・・。そうこうしているうちに警視庁が見えた。仁は中に入ってうろうろしていると、見慣れた顔が声をかけてきた。
「おい、加賀美。」
「金城さん。」
「やめてずいぶんと日にちが経ったと思ったらまた似たような場所で会うとはな。」
「そうですね。」
彼はショッピングモールの事件の担当になり、記事を書くわけでもないにしろ、見えてくるものがあるのだろうと思った。事件は裁判にまで発展すると思われたが、政治家の悪事が別で発覚したこともあって、それが有利になったのか、身を引くために雲隠れをすることを選んだのだ。その悪事を暴こうとするマスコミがいたこともあって新たな火種をつけたとしてまた騒がれている。
「諏訪さんもやめないでいるんですね。」
「あの人を簡単にやめさすような会社じゃないんや。嘘にまみれた事実を書くだけの週刊誌やないんや。どれだけ事実を書いて訴えているべきかや。」
羽鳥は今もいるのだ。誰も望まない結末にはしないというのがモットーなのだといっていたと彼は笑った。裁判をしたとしても負け戦にならないこともわかっていたので会社も許していたのだという。
「まぁ、あの人も図太いというか。なんというか・・・。・・・そうや。金子が社会部に志願して入ったんや。最初やからといって小さい事件を追っているわけやないで。そこそこ大きな事件を任されているんや。」
金子は加賀美を送り出した後、羽鳥に相談をしたのだという。文化部にいてもいいのだが、加賀美の後を継ぎたい気持ちもあるといったのだ。
「あの人もよく許可したんですね。かなり厳しいところがあるからいけないところは断るじゃないですか。」
「そうらしいな。羽鳥はもっぱら決断力というか見通す力が大きすぎてあまりにも無計画には戦えないといわれている。そこは変わらないみたいや。けど、金子の熱意に押されたんやろ。許可が下りたんや。もともと文化部でいい記事を書いていたこともあって認められていたみたいやけどな。」
金城は晴れやかに歌うように言った。