告げるべきこと
その翌日に加賀美は幸之助に行くべき場所ができたといったら行けばいいといわれたので行くことにした。彼の言葉には突き放すものはなかったのだ。ただ背中を押すために言っているのだとわかっているのだ。
「じゃああの着物を出しましょうか?」
「いいよ。母さんだって忙しいだろ。会っておかないといけない人だと思っているから。」
「わかっているわよ。・・・私がすることなんて知れているから余計にね。」
彼女はハンガーにかかったままになった着物を取り出した。そのままにしておくほうがもったいないからといって着るように催促してきた。
「わかった。きるよ。」
楓はそれを知ってうれしそうに笑った。彼女も昨日のうちにいろいろと吹っ切れたのだろう。旅館のことは彼女は多く口出しをしないからか、姉が訪れては兄に対する文句を言ってかえってしまうのだ。彼女には株式をもっていることもあって少しでも明け渡してもらいたいと思っているのだろうから。
「姉さんには継いでほしいと思っているの。兄さんだと板前だけをしてしまっては他の従業員の人の見本にならないでしょ。他人が入るわけじゃないんだから。せめて姉さんに次いでもらってと思っているの。」
「そう。母さんがそう考えているのならそれでいいと思うよ。だって、母さんはゆだねられているんでしょ。俺はそこまで旅館にいったことがないからよくわからないんだよ。」
仁は寺での暮らしが長いために楓もそこの暮らしに慣れてもらうために幼いころにしかいっていないのだ。跡継ぎ問題の発展につながってしまったらと恐れたのかもしれない。
「それに母さんのお姉さんって大学の経営学を学んでいるんでしょ。」
「その知識は大きな利益にもなるし、はたまた大きな事件を起こしかねないものになってしまうものだと思っているの。知識があることで買収の話が上がってしまった時のことを考えると利益を気にして受け入れてしまうことだってあり得るじゃない。」
かといって兄だと板前の履歴しかないために他の仕事をしていないがためにわからないことが多かったりするのではないかと思ってしまうのだ。楓にとって悩みごろが多かったことも確かだった。決断を少ししただけで旅館にいる人間には誰にも打ち明けていないので大きなことにもならないのだ。どうなってしまうかと思ってしまうのだというのだ。
「嘘をいってしまってもまたごたごたにつながるでしょ。嫌なのよ。」
「そうだね。いろいろとまた相談だね。」
楓は照れ臭そうに悩みながら笑った。