妄想と空想
刑務所での面会室は何処かそっけないような上に何処か他人行儀な感じにも取れる。案内された面会室でパイプ椅子に座ってただただ来るのを待った。ドアのノックの音が鳴った。そこにはスウェットを着ていた。自動車いすを走らせているのだ。狭いだろうが、扱い慣れているのか手早いものだった。
「あんな手紙を書いておいて本当に来てもらえるとは思っていなかったんですよ。」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ。だって元は俺は犯罪者の息子で悪徳弁護士だった人間だったという経歴を聞かれているのだと思ったんです。今や卜部の名前は汚名ばかりです。・・・笑ってしまいますよ。:
卜部は父親の犯罪に気づいていたのだろう。打ち明ける場もないまま、時間だけが過ぎて言ってしまって残ったのは冤罪と失ったものの多さだったのだ。
「弟も父親の事件は引きこもっていた中で知ったんだと思います。津田海さんにはお詫びをしたいんですが・・・。なくなっているんですよね。せめて、息子さんの隆吾さんに謝罪をしたいんです。でも、新聞で同じ塀の中に入ってしまったとみてしまったので何もできないと思ったんです。だから、加賀美さんに隆吾さんに謝罪の手紙を渡してほしいんです。下手な文章ですけど。」
「構いませんよ。俺はこの事件の全てを見届ける必要があると思っているんです。俺は新聞記者として人の人生も書いているのだと改めて思ったんです。そこでうやむやなことを書くなんてできなかったんです。」
加賀美もまた今回の事件での葛藤と戦ったことがあったのだ。彼の言葉には晴れやかな言葉でもあった。うしろめたさも感じているようでもあったのだ。卜部光明が犯した罪の多さも知っている彼には背負っているものを脱ぎ取れるほどの軽いものではなくなっていた。
「恭介は正しかったんですよ。あの家で正しいと判断していたのは・・・。それを否定していたのは紛れもなく父親だったんです。親父は区議会議員になった上に会社の社長だったんですよ。全く権力におじけづくことなく悪事に手を働かせていたんです。会社も悪事によって大きくなったものなんですから。」
「今はそう思うんですか?」
「はい。明らかにね。恭介は行きたい高校に行けなかったから引きこもったんじゃないんですよ、きっと。それも含まれているとしてもそれだけじゃなかったんです。あいつは引きこもっていたこともあってパソコンの扱いには慣れていたんです。そこで家の中で起きていることが常識じゃないと知らされたんです。それで俺たちを殺人という武器で知らせようとしたんです。不器用にも・・・。」
良助は俺の勝手な想像ですけどと付け加えた。