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落掌  作者: 実嵐
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笑顔の意味

「父さんは銀行に勤めていたことを後悔していないか?」

「してないさ。社会勉強といってしまえば単純だけど、それじゃすまされないものを知ったからな。嘘や守るものをはき違えてしまって出て行く人を見ているんだよ。それを安易にダメと言い切れないことも知ったんだ。それがなければきっと被害者遺族に会って話を聞いたりとか加害者にもあったりなんてしないよ。」

銀行だからにい続けたとしても幸之助は戦ったのだろうか。銀行をやめる時には戦線離脱したなど揶揄されたこともあったのではないだろうか。それも戦っていているのだろうか。

「お前もそういう経験をもっているから、最初から住職の人は違うさ。悩んで記事を書くことの苦悩も知っているんだ。情報を漏らす人の意図も知るさ。これからわかっていくこともあったりする。それを受け入れることの大切さが必要だ。」

世知辛い世の中になってしまったことを仁はしみじみ思ってしまったのだ。子供が行う前に良し悪しを勝手に決めてしまう親があふれていることも事実だ。きっと大きくなった時に何が正しいのかを判断する能力を身に着けることもないだろう。少しでも選択肢を作って見せることの大切さを感じることはないのだろうか。悪気ない態度を見せることばかりがいいのではないのだ。仁にはそれを否定するだけで納得するのはどうかと思ってしまう。怪我をして学ぶことだってあるのだ。失敗をして学ぶことだってあるのに、それすらも奪ってしまおうとする親はきっとのちのことを考えていない端的にしか思えない自分勝手な親だとしか思えない。仁はくだらないことを考えてしまったと思って照れ臭そうに2人の前で笑った。

「お前らしく会ってこい。卜部良助もきっと心が変わっている。打ち明けたという経緯のある人間に会うんだ。今更嘘をついて何の得やらなんやらが生まれると思っているんだ。損得勘定で考える人間にしても全てを打ち明けている時点で自分に損害が起きていることだってわかってしまっている。あがいてももがいても無駄だってね。」

刑務所で彼は何を考えながら時を過ごしているのだろうか。弟の人生を奪ってしまったこともあるのだろうか。父親の死は当然であったことも考えるのだろうか。人殺しをしていてもなお、弟に殺されなければ生きていたのだろうか。人が生み出す無念さと向き合うことができたのだろうかとも思ってしまった。

「そうだね。俺らしくあってくるよ。新聞記者だった時ほど聞きたがらないさ。」

好きにすればいいというように幸之助は笑った。

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