親子の縁
「諏訪さんに親父が手紙を出した時には来なかったんですよね。親父にいったら会社にいるから来れないことも理解できているって言われたのを覚えています。」
須藤哲明は笑顔を見せていた。仕立てのいいスーツのようにも見える恰好をしているのだ。エプロンをつけてはいないところが品格をよくさせている。加賀美が手紙を鞄から出すと驚いたようにしていた。
「諏訪さんは捨てていなかったということですね。それで加賀美さんがこちらに来られたというわけですか・・・。」
須藤が営んでいる喫茶店の名前は『ユリ』となっている。哲明に聞いたところ、哲司が開くときに付けたもので母親の名前ではなくて、刑事ドラマとかでユリが出るのを思ってつけたのだという。哲司いわく、正義の花としているのだといったのだ。警察を務めていただけに警察を熟知しているのだという。
「父は昨年亡くなったんですよね。父が死ぬ間際にいったんですよ。警察に処刑台とかブラックリストとかを調べているように見えぬように隠れ蓑として始めたと聞かされました。それで俺も親父の意思を継いで調べているんです。だから、警察にわかったことがあっても事件が起きないと動かないのは知ってますからね。」
哲明は新しいコーヒーを作って自分で飲んで納得した後に裏へと向かった。哲司が書き溜めていたノートをもって来たようだった。大学ノートに書いてあるのは処刑台、ブラックリストだ。哲明に許可を得てノートを見るとサイトを事件が起きる前からかなり前からやっているようだ。
「親父は刑事になったことを誇りに思っている様子はなかったですよ。俺に警察に入るな、ろくなところじゃないとか言ってましたから。喫茶店を継ぐことで父の意思を継いでいるような気持ちにもなったんです。」
「喫茶店を行うのは簡単なことではないでしょう。そうしか言えなくて・・・。」
「いいんですよ。俺も専門学校を出て一応は別の飲食店に勤めたんです。親父は社会勉強だからといってましたよ。すぐにはやめる気にはならなかったんで、当分は父がやっていたんです。母はそんな父を嫌がったりしなかったんです。事件を追っていることも誇りに思っていたんだと思います。警察の再就職を断ったくらいですから。」
交番の指導くらいがあったらしいが、やりたいとは思わなかったのだという。処刑台の事件もうやむやになって次へと進む感じも嫌になっていたのだ。哲司にとっての誇りがなくなったのと同じだったのだ。