見えている世界
それから数日後のことだった。地主がいた大きな家は取り壊すことが決まった。地主がしてきたことが明らかになってしまって弁解の余地すらもなかったのだ。それが地域に広まるのには時間がかからなかった。彼女がそれを決めたときの表情は寂しそうでもあったが何処か吹っ切れたような顔をしていたのが印象的だった。幸之助は彼女の決断を受けれてたまにはくればいいといったのだ。
「父さんはさ、あれでよかったと思っている?」
「彼女が決めたことだからとやかく言うつもりはないがな。少しは事情を言っていけばいいものを何も言わないまま去っていくことを決めたことが痛いことだな。まぁ、漏れた相手が悪かったわな。」
幸之助はそう言ってリビングでコーヒーを飲んだ。楓は寺の掃除をしてくるといって2人から離れているのだ。
「父さんは母さんの旅館について思うことないの?」
「あの旅館での騒動は聞いているさ。まぁ、跡継ぎをどうするかという話なんだけどね。楓さんはね、そこから離脱したんだ。お兄さんやお姉さんが仲居の仕事や板前の仕事をしているのを聞いているからね。1盤いいのはその旅館にいる人達で決めてもらうのがいいんだよね。」
彼はそう言った。誰かが仲介に入ってしまうことで新たな争いの引き金を引いてしまうことを恐れているのだ。ただでさえ派閥とか起きていることもわかっているために誰かが止められる状況にならないのだ。
「それで仁はどうするんだ?」
「卜部良助に会うことか?」
「そうだ。会うか会わないかみたいなことを漏らしていたじゃないか。」
幸之助はそれを気にしていたのだ。卜部に会ったとして何かが変わるとも限らないが何かの通過点にはなるとは思っていたのだ。
「会うさ。どうして荻元光が捕まったからといって弁護士資格をはく奪されたことで内藤丈太郎は卜部を邪見な扱いに変わったのか。情報を漏らされて困るのなら守る方法を模索するだろう。いくら障害をもっているとしても弁護士としての経歴をもっているのは事実だ。おいておいても邪魔にはならないだろう。新たな弁護士を雇うことになったとしても多額の金が入れば言うことを聞くだろう。」
仁の中では思うことが大きくなってしまった。彼の答えは変わることはないと知っている幸之助はそうかといってテレビのほうに向かっていた。進んでいるのだろうが、時たま止まっている気になる時があるのだ。それすらも進めてくれる存在があることに誇りに思った。