洗ったための行為
「それでも真実を話すということはためらってしまうものなんです。本当なら息子を守る立場になるはずが、売ったんですよ。恨まれてもいいんです。」
彼女はそうつぶやいていなくなってしまった。仁は幸之助と一緒に立ち尽くしていた。彼女の言葉にはきっと言えないものも含まれていたのだろう。地主の嫁ということもあって悪者にされる時期もあったのかもしれない。それでも負けずに入れたことにも意味があるのだ。彼は葬式が終わり、食事をいただいた後に幸之助とともに寺へと戻った。そこには着物を着た楓が立っていた。
「2人ともおかえりなさい。お勤めご苦労様です。」
「楓さんこそ、寺を守っていてくれたんだ。有難う。」
「いえ、私はただ大したことはせず、こもっていただけですから。・・・そうだ。さっきね、郵便屋さんが来られて仁にって手紙を受け取ったのよ。宛名が卜部良助ってなっていたわ。」
楓はそう言って手紙を渡してきた。白い封筒に特徴のある字で書かれていた。そこには桜のマークのハンコが押されていた。きっと刑務所から書いてきたのだろう。
「仁、立って読むのはいけないから家に入って読みなさい。そういうものはキチンと読むほうがいいんだ。」
動きづらい着物を着たままであったが、仁は関係なしに履物も脱ぎ捨てるようにしてテーブルにある椅子に座った。仁は雑に封筒を開けるのは何となく嫌はさみで丁寧に切った。卜部良助は刑務所に入っていることが書かれていた。裁判は略式になることを予測していたら案の定そうなったことも書かれていた。障碍者を食い物にしていたことに加担した理由も書かれていた。彼には日楽新聞で過去を掘り起こされたことがあった。弟をいじめていた当事者として扱ったりしていたことも書かれていたために逃げ道すらなくなってしまった。大学もいって弁護士になるためだけの勉強もしてきたが、弟の事件で運命がくるっていくを感じていたのだ。それでも荻元光は事務所に入れてくれることになったことを喜んでいた。彼もぬぐいきれないものを忘れてしまったことがあったのだ。弁護士になってもあくどいことをしているとも思ったこともなかったと書かれていた。
「真剣に読んでいるのね。彼は貴方に全て打ち明けてくれた人?」
「そうだよ。俺も内藤丈太郎について知ったんだ。新聞に載せて罪を償うつもりで出すことを許してくれたんだ。それで今は刑務所にいるんだ。彼も弟の卜部恭介の事件で被害者なんだ。足を洗っている姿を見たいんだよ。」