過ちが導く栄光
仁は幸之助に連れられて地主の葬式へと向かった。他の家とは違って広々とした庭に加えて昔ながらの蔵も見えたりした。そこに黒スーツに高そうな革靴を履いてタバコを吸っている男性がいた。女性と少しだけもめているような姿も見えたが無視をすることにした。
「お世話になります。」
「いやー、待ってましたよ。親父がかなり信仰していた寺の住職に頼むのが筋だろうと家族会議をしてなったのでお願いしたわけです。親父も気苦労をかけることも多かったですから。少しばかりそれを忘れされるくらいの華やかさにしたいんです。」
息子は口ぶりはめんどくさそうに言っているようでもあった。父親をよく思っていなかったのではないかと思うしかなかった。彼に促されるようにして座敷へと導かれていった。そこに集まった人は少なかった。きっと地主に対するものではなく、息子に対するものが見せたのだろうと思った。案内をし終わった時にため息を彼はついた。
「それではお願いします。」
あっさりとした言葉が告げたときには騒がしかった場が静まり返った気がした。子供も焦ったのか、ドタバタと急いで畳の上に座ろうとしてこけて泣き出しているのを素知らぬ顔をして前を向く地主の息子がいた。数分の時が過ぎてお経を唱えるのが終わるとすっきりとした顔をした人物が現れた。女性は少し疲れた顔を見せまいとしているようでもあった。
「有難うございました。以前、息子が皆様に迷惑をかけたことを踏まえましてもしもの時にと夫と話し合っておりました。養子をとっておりまして彼にこの家を守ってもらうことにしてもらいます。」
彼女はそう言って別の黒スーツを着て黒縁眼鏡をかけた中肉中背の男性が現れた。彼は畳に正座をした。
彼は深々と頭を下げた。
「此処の当主になることになりました。加藤直人です。」
実の息子は聞いていなかったのか、公の場にも関わらず大声を上げた。自身は聞いていなかったことを怒鳴るように言うが周りのものは知らぬふりをした。彼女はそういう彼にこう言った。
「あんたが今まで近所の人に何をしてきたと思っているの。勝手に誰の許可を得たわけでもないのに土地開発をしようとして不動産屋とてを組んでいたことは加賀美さんに聞いてもらったからみんな知っているの。それなのに、何も変わろうとしないこともあってね。養子をとって決めるのがいいと思ったの。」
知らぬうちに進んだことに怒っているわけではないことはみなわかっていた。ただ自分が上になれないことに怒っているだけなのだと。