新たな一歩
正美はいぶかし気な顔をしていた。警察が罪を許すことをしてしまっては模範としている政治家の動きに対する気持ちすら薄れてしまうこともわかった上なのだ。
「全く政治家って勝手なのよね。自分たちにはルールを課さない癖に国民には何でもかんでもルールを作るの。ルールを作らないから破るに決まっているの。だから状況判断に遅れてしまって批判が高まるのよ。」
「そうですね。優先順位としては先に政治家のルールを作るほうですよね。甘く見てたたかれても戦えないじゃないですか。言い訳を繰り返すばかりで・・・。」
「そう。全く何をもって政治家ですなんて偉そうな態度をしているのかしら。ただの親や親戚の七光りが多い中で何がどう判断できるの?できるわけないじゃない。価値観違うんだから。」
彼女の怒りの声は人知れず大きくなっていたのか、それに気づいた彼女は恥ずかしそうに顔を赤くした。そこに着古したスーツを着た男性が近づいてきた。
「姉貴、えらい大きな声出していたんやな。外まで丸聞こえやで。・・・まぁ、みな思っていることやから俺は何も言わへんわ。」
「私、戻るわね。」
逃げるようにいなくなった。熱を持つ姿は父親と重なるのだろうか。金城は懐かしそうに見つめていた。この姉弟が大きな喧嘩をしなかった理由もわかった気がした。
「姉貴はさ、あんなところがあるんや。親父と似て悪は悪って区別する分、刑事になったら苦労するタイプや。わかっているからならんかったんや。経理担当やって言っても何処かで事件については口出したいと思っているんやろな。心の中では・・・。」
金城はショッピングモールの事件のことで記者クラブに訪れる用事で来たのだという。警視庁が会見を開くとか開かないとかいうろくでもない噂があることもあって諏訪にいわれてきたのだという。
「そんでお前はどうしてこないなところにおるんや?」
「俺は黒岩隆吾から手紙が来たので会ってみようと思っているんです。此処の拘置所にいるってわかったこともあったので・・・。」
「そうやったんか。黒岩隆吾は捕まった後はあっさり自供したっていうんやからな。自首とはならへんにしてもや。刑は軽くはならん現実を知っている分、おそらく落ち着いているで。なんせ検事だったうえに弁護士やったんや。立場は百も承知や。」
彼の言葉には気楽にいけという意味も含んでいるのだと思ったのだ。彼も拘置所の人間が加賀美の父親の名前や寺を知っていてもおかしくないこともわかっていることもあって話は早かった。