荒野を進むために
金子にとって記者としても重い荷物を抱えているようにもなかったのだ。文化部で連載の案を提案している姿を覚えている。何処かで割り切った態度に見えたときに認められなかったら別の案があったのではないかと。誰もやりたがらなかったものも金子には痛いほどわかっているからこそだ。
「金子がそこまで思い悩むことじゃないんだよ。俺だって途切れたとか思いたくないんだ。そう思ってしまうしかなかったのかもしれない。俺には誰がやったとか思っていない。」
「お前は優しいんだよ。だから、怒らないんだ。」
彼はそう言って目をぬぐった。そこには見えない壁があったからではない。わかりあってきたからこそ見えているものとそこまで言っても見えなかったものが合わさっているのかもしれない。沼田はその場を散らすこともしない。
「私は金子君が連載をしたいといったらとも思わないわ。誰もそんな賞を取った連載を持つのには責任しかないんだから。後悔なんていらないの。前を向いてただ歩いているだけでいいのよ。なんでこんなしんみりしちゃっているの。」
つぶやく声を聴きとれるのだろうか。金城は金子の姿を見て肩をさすった。彼もまた考えていることがあふれてしまっているのだろうから。人とは見えない崖を見つけたときにそこから落ちるしかないのかとも思った時もあったが、そうではないのだ。引き返すためには躊躇はいらないのだ。やまない雨はない。ただその現実だけを見つめていけばきっと進んでいると加賀美は思った。
「金子、有難うな。きっとそんなことを思っている人なんていないと思っていていたから・・・。俺が会長賞を取った時に文化部の奴とか嫉妬している奴らから嫌味を散々言われていたからそのこともあってやりたがらなかったんだと思った。・・・そっか、お前だけは違ったんだな。」
「俺だって会長賞を取った時は嫉妬したさ。けど、お前が社会部に行って記事を書いているのを見て思ったんだよ。記者として残るべき人間がいるって。キチンと書いている記事を読む度に思ってしまったんだ。」
彼もまた連載をもっているが、特段人気があるとも言えないのだ。そのこともあって加賀美のことをライバルだと思っていた。一方的だったかもしれない。社会部に異動になった時は彼が望んでいないことだとも知っていた。茶化すしかできなかったが、それでも船を進めるために帆を上げることに集中させたかった。帆を上げることができればあとは大概進めるものだ。小さな船だろうが大きな船だろうが・・・。