聞いたこと
金城にとって正一の存在は何処かで輝いて見えた。疲れて切った制服を持ち帰る父親に声をかけるほどの何かを持ち合わせているわけでもなかったが、正美と思っていることは同じだったのだろう。
「まだわかっていることも警察は明かさないやろな。立場を主張だけして全くってな。」
加賀美にとってもたしかりといえる人はいるのだ。新聞記者として働いていくことに対する自信はなくなってしまっていた。
「金城さん、予定通りやめることにします。」
「そうか。自信を無くしてしもたか。まぁ、加賀美、お前は警視庁の拘置所にでも坊主になった時にでもあってみろ。黒岩隆吾の心情がよくわかるやろ。時間が解決するもんもあるんや。それは嘘やない。」
彼の力強い言葉に驚きながらうなずいた。そこにわかるものもまたあるのだろうから。時間を経て気づくこともあるのだと。
「俺にとってはお前は寺の坊主になろうとなるまいと俺の部下で俺の親父の事件を解決したことは変わりないんや。嘘や偽りを持った人間じゃなかったことで見えることもある。たとえ、記事を書いたことに後悔をもっていたとしても胸張っていたら時が解決するし、何時かそれを認めていくようになっていくんや。」
光をともしたかのような言葉は彼のしまってしまった鍵を探しているかのようになっていたのだ。心の中には氷や錠前があるのだと改めて思った。それでも他人の言葉でそれを溶かしたり、鍵を開けることも可能だと思わせてくれた。
「自身はなくなってもな。もっていないといけないものがあるんや。愛や。簡単な言葉ほど重いんや。それをわかってもいない人間の言葉は軽いんや。そして、心に響かん。自分のことばかり考えてしまうとそれで止まってしまうやろし・・・。」
テレビで告げるのは現状だったりすることが多く心ない言葉をポンと投げることもいとわない記者もいたりするのだ。投げても回収できない玉をまるでその人の所為にしてなかったことにすることもあるのだ。言葉を知らずに投げているだけなのだ。同じ玉でもスピードや球種が違ってきたらそれでとらえ方が変わってきてしまうのだ。それも考えずに思ったことを投げるだけでは無責任に過ぎない。それを無責任だと相手に投げてしまうこともまた無責任なのだと。
「俺にもそれなりの決意がありました。ですが・・・、今回ばかりは耐えられないんですよ。」
「それでいいんや。それで帰る場所があるってことが大切なんだと思うんやと。」