異動
翌朝、仁は和食の朝ごはんを見た。基本的に和食が多く洋食が食べたくてせがんでいた時期を思い出した。
「今日も早いんでしょう。幸之助さんと同じ時刻でいいと思ったのよ。」
「有難う。」
朝ごはんを食べて仁は玄関へと向かった。新聞社に行くためにはと思っているのだろう。楓は昨日とは違った着物と身に着けている。着物はいったい何着もっているのかすら定かではないのだ。仁は楓の姿を見て、幸之助の姿にも思えたのだ。
「父さんにもよろしく言っておいてよなかなか帰れなくなるからね。」
「まぁ、今も帰れていないでしょ。ただ、幸之助さんが寂しがったりするから手紙はよこしてね。楽しみにしているから。」
「わかった。」
彼はそう答えて出て行った。地下鉄を乗り継ぎ、会社についた。エレベーターに乗って何時もの階とは違うことを思い知った。違う階数にいったら別の世界にいったように感じた。諏訪がどっしりと座っている。
「いやー、待っていたよ。」
「諏訪さん、すみません。」
諏訪の前にいった。相沢の使っていた席にいったのだ。1つの段ボールが示すように置かれてあった。加賀美は諏訪に言われた通りに少しの人数の前に立った。
「みんな、聞いてくれ。今日から文化部から異動になった加賀美仁君だ。伊達な人じゃないからな。会長賞を取った人物だ。」
「加賀美です。よろしくお願いします。」
記者クラブに在籍していると思わしき人物はみな知らぬ顔を見せていた。事件を追っていることもあって、知らないのだろう。諏訪は思い出したかのように言った。
「そうだ。金城君、加賀美君を頼むよ。」
加賀美は金城と呼ばれた名の人物に近寄った。金城は何処か迷惑そうにしているようだった。
「諏訪さんが言うのならいいですけど、俺のしごきについてこれる輩だとは思いませんよ。すぐに値を上げる人を見てきたばかりに・・・。それも記者クラブに即だなんてやりすぎですよ。」
「そうかね。まぁ、君にも必要なことが分かる気がしてね。じゃあ頼むよ。」
諏訪はそう言って自分の机に戻って言った。加賀美は段ボールから荷物を全て出し、しまって、黄ばんだ手紙と手帳をもっている。金城は迷惑そうにしている。
「加賀美君、君は何処に行くつもりなのかな?」
「須藤哲司の開いた喫茶店です。処刑台について調べているとすればブラックリストを調べていると考えるのが妥当です。だから、もしなくなっていたとしても息子さんに話が聴ければいいんです。」
「あっそ。」
金城はそう言って加賀美を放っておいた。




