光った闇
加賀美にとってはその日は流れが遅く感じてしまった。会社を出たとしても行き場をなくしてしまった気持ちになった。号外を受け取った人達は昔の事件の犯人が解決したからといって誰もゴミのようにしか思っていないだろう。捨てられている日楽新聞を見つめた。これで評価を受けたとしても喜べるものでもない。止とぼとぼと歩いていると町の喧騒がうるさく感じてしまう。静かに過ぎていくのを待っているようにも思えた。誰かが大きな声を上げて走ってきているで、振り返った。そこには諏訪がいた。
「加賀美がいないっていう話になったから、もしかしてと思ってな。沼田が放っていても大丈夫だとか言っていたけど、羽鳥も心配そうだったし。金城も何処かで心配していたんだ。・・・今日は休め。だた休め。テレビで取り上げられるかもしれないが、放っておけ。俺からはそれだけだ。よく記事を書いた。それだけだ。」
彼は加賀美の答えを待たずにすっといなくなった。彼もまたショッピングモールの事件の真実を取り上げたことで国家議員から訴えられるとかの話も上がっている。でも裁判で勝てることもわかっているため、何処か晴れ晴れしか顔が張り付いてならなかった。諏訪に対して別段、嫉妬をしているわけでもない。諏訪に会ったことで晴れない心のままいるのが嫌になってしまった。警視庁の近くに居酒屋と思しきところがあったのを思い出した。そこまで歩いて行った。そこに行ったのもまたたまたまだった。偶然が必然になってしまった現実に何処か恨みたくなる。そこまでつくと足がおじけづいてしまった。黒岩隆吾が通っていた場所でもあったのだ。引き戸は重くなってしまった感じがした。
「いらっしゃい。あら、黒岩君と話していた人じゃない?」
「そうです。」
「黒岩君がまさか、大きな事件を起こしているなんて思わなかったわ。だって、人が良かったから。まぁ、大概人ってそうよね。」
流れに逆らわずに言う感じが何処かすっきりした。ビールを頼んだ。黒岩隆吾に会った時もまた警視庁にいった帰りだとか言って少し疲れた顔をしていたのを思い出した。あまりしない顧問弁護士をしていたとも言っていた。
「俺は黒岩さんの記事を書いたんです。」
「そう。それでもね、貴方の責務っていうのを果たしたわけじゃない。彼にとっての責務はなんだってかまわないの。」
彼女から聞かさせたのは荻元法律事務所をやめて、他の弁護士事務所を受ける気になれないといっていたのが印象的だったらしい。荻元法律事務所から使い物にならないという烙印を押されたら働けないのだといっていたのだ。そこにあったのは埋もれた良心だったのかもしれない。