時が明かす風
諏訪が新聞社に到着してから何時間した後にとぼとぼと歩いて近づいている男が休憩スペースへと向かって歩いてきた。顔はすがすがしいといっていいほどの表情を張り付けているようでもあった。
「あれ?俺を待ってはったんですか?」
「たまたまだよ。まぁ、加賀美が号外を出したことだしと思って少し長話をしただけだ。」
「そうやったんですか。」
金城は自動販売機でペットボトルのコーヒーを買った。乾いた心を潤すかのように一気に飲み干した。警視庁まで見とどめるのは気が言ったのではないかと思ってしまうが、本人はそうは思っていないかもしれない。
「黒岩隆吾はちゃんと警視庁へといったか?」
「はい。最初のほうは往生際が悪くて腹が立ちましたけど、それでもあきらめていきました。子供には転勤なったとか言ってましたけど、いずれ戻ってこれへんことも本人はわかっているんやろから奥さんに大きくなる前に離婚するとか言ってました。」
黒岩にとってそれほどのことだったのだ。学生の時から殺人を犯したのはきっと幸吉に対する恨みもあったのだろう。そこで晴らしたかったことが沢山あったのかもしれない。週刊誌が騒ぐ前に離婚を前提にしているのは隆吾が戻ってくるとは思っていないのだ。会えるなどと甘えた考えを思っていないからこその言葉なのだ。子供の成長を見切れないことも後悔としてあるのだろうか。
「かおりさんはどうだった?」
「何処かでほっとしているようでしたよ。警察が捕まえへんことはかなり腕が凝っていることが分かっていてそれでも捕まえてほしかったみたいです。異変があるのは大概は家族といる時で突然、泣き出したりして情緒不安定だと思ってみているしかなかったみたいです。止められないことだとも自覚していたようです。」
かおりは隆吾と離婚しても会いに来るとも言っているようだった。金城はそれを聞いて思うことがあった。それを長年続ければいずれ隆吾が合わなくなると思った。彼は人生をかけたゲームではないが、それに近いことをしていたのだ。贖罪を持たぬ人間だとは思えないため、罰として会わないようにするだろうとしか思えなかった。
「ましてや、検事や弁護士をしていた人間がどんな正義かは知らないが、人を殺していたと知られたら評価が下がるな。黒岩家は特に幸吉の印象も変わってしまって検察にいる時の立場が変わってしまっているだろうな。」
「当たり前だろ。まず、殺人を犯した人間を逃がしたんだ。それだけでなく、拳銃を売って金を得ていたことも流れている。立場は悪くなる一方だよ。」
羽鳥と諏訪が検察としての状況が変わっていくことへの話をしていた。大きな顔をしていた人物ができなくなるのだということなのだ。愚かな仕打ちへと変わっていく。