紙になりものへ
加賀美には愚問といわれるものが世の中にあふれているとも思ったことはなかった。愚問というのは受け取り方に過ぎないにも関わらず、何処かで浮かんでくるのを待っているとしか思えなかった。加賀美は号外になったということもわかった上で金城を待っているようにもなっていた。
「諏訪さんはもうそろそろ来ますかね?」
「来るさ。あいつは自分の中で抱えていた荷物が降りたんだ。少しは余裕は持てるだろうよ。・・・ショッピングモールの事件は消えないんだろうな。国会議員の息子がかかわっていたことが公になっているから日楽を裁判で訴えるとか可笑しなことを言ってるんだよ。勝てる裁判でもないのに・・・。」
羽鳥はそう言った。日楽のほうにははっきりとしか証拠を持ち合わせていることを知っているのだ。デマを書くほどのものでもないと知っているのだ。嘘を書く奴でもないと彼の心にはこたえが見えているのだ。
「下手な芝居をしてもそれを世間はどうとるかにもよりますよね。まぁ、国家議員として何かをしたわけでもないのに、無駄に誇りやら驕りをもって仕方ないんです。救えない人を放っているのが国家のすることなんです。」
沼田はそういって静かに笑った。何処かに隠されている表情をもっているのだと思った。そんな話をしているとバタバタと音が近づいてきた。諏訪の表情は晴れ晴れしたものだった。
「さっきだ。金城から黒岩隆吾が警視庁にいったのを確認したと連絡があった。金城はお姉さんに聞いて情報を取るとも言っている。まぁ、大丈夫だろうけど・・・。」
金城は姉に頼んで罪を認めているかどうかを迫っているのだという。それだけが心残りにならぬようにしているのだ。れを知っていることに違いないのだ。
「金城も被害者遺族だって言われなきゃわからないんだよな。一応はマスコミの人間だからと思って隠しているんだろうけどさ。嘘をついているわけでもないんだろうけど、自分に嘘をついたことがあるのかもしれないな。」
かすかに漏れる光が導くのは光だけとも限らないのだ。闇を追ってしまう可能性もあるのだ。それを感じてしまった。金城にはあり得ないのだとも誰も言えないのだとも・・・。
「あいつはそんなことはないさ。無様な恰好を見せるわけじゃないんだろうから。正美さんがきっと操るようにしているのかもしれない。伊達じゃないからな、あの人。・・・本当は刑事にでもなりたかったんじゃないのかと思ってしまうんだよ。」
諏訪は神妙そうに言った。