進む世界
「その人とは疎遠にはなれないでしょ。私の土台を作った人なんだから。今もやめたとは言え、同じマスコミっていう業界の中では同じだし・・・。」
「そうですね。もらったものの重さは計り知れないですね。」
「そうでしょ。だから、今更ながら恩返しをさしてもらっているの。相手は案外うっとうしいとしか思っていなかったりしてね。まぁ、照れくさくて聞けていないのよ。堅物とも言えない人だけど、根は真面目過ぎて石頭なの。」
沼田はそう言って愚痴を漏らすかのように言った。日楽新聞に紹介してもらった上に中途採用になるまで見とどめたのだという。その人にとっては切っても切れない人になっていたのだろう。彼女と話していると近づいてくる足音があった。
「なんだ。そんなところにいたのか。」
「羽鳥さん、久しぶりです。沼田です。」
「噂は知っているよ。黒岩幸吉の事件を追っていて死んでも警察が調べない限り、浮かんできた事件は調べるつもりだって諏訪から聞いたよ。・・・執着するね。」
「それを週刊誌の時に学んだつもりです。」
張り切って言う姿には自信しかない感じにしか映らなかった。過去の過ちと戦った末の決断でもあるのだろうから。彼女のかなめになっているところなのだろう。羽鳥は自動販売機で缶コーヒーを買った。
「編集部の奴が加賀美が書いた記事を大きく載せることができないとか抜かしていたことを言うから怒ったんだ。あそこの部長も号外とかっていう手も打てるのに嫌がるんだ。」
時間的な余裕があるのに記事を載せるのを嫌がったのだという。羽鳥も引き下がらなかったのだという。時代をまたいだ大きな事件にも関わらず嫌がるのはどういうことなのかと怒ったのだという。編集部というのは予定通りに行くとも限らないことをわかった上でするので質が悪いのだ。編集部に行くことを嫌がることにつながってくる。羽鳥はそこの壁すら壊すようにしてしまう。記者の苦労がよくわかっているからなのだ。
「最終的にどうなったんですか?」
「号外だ。日楽にとって歴史的瞬間になるとか言ったら最終的に引き下がったよ。どうせその記事を切ったら最後に痛手を食らうのは編集部だからな。他の部署も知ってる事実となるとなおさらだ。他の新聞社にとられたら最後でもあるからな。まぁ、あの事件は無理だろうけどな。警察に張り込むしかできないやつには・・・。」
「そうだ。時間が出来たら祝勝会でもしませんか?金城さんとか呼んで・・・。」
羽鳥と沼田は盛り上がった声を上げた。