事実・真実
「母さんこそ、旅館を継がなくて後悔はないの?」
「昔はあったのよ。だってテレビ局が来るほどの旅館だったからね。でも大人になっていくにつれて跡継ぎ争いに巻き込まれるのが嫌になって会社員になったの。会社に入れば必死だったから後悔はなかったわ。お祖母ちゃんはきっと私がおかみになってくれると思っていたみたいだけど・・・。」
兄弟の中で一番頭が切れるのが楓だったのだ。どうするべきかを定めてくれるように思っていた部分が少なからずあったのだろう。楓自身には旅館を継がなくても旅館を支える方法があると思ったのを母親に伝えた。その言葉を聞いた母親はあっけにとられたような表情をしていた。
「伝える時にね、だましたのかと見たいな顔されたときは驚いたのよ。特段、家を出るといったわけでもないし、継ぐ気はないっていう思いを伝えたに過ぎなかったの。それでも考えさせてといわれたわよ。」
「母さんに継ぐ気がないとわかったら旅館を変えないといけないから?」
「違うわよ。お祖母ちゃんの構造が変わってしまっただけよ。だから私が株式を持ち合わせて姉と兄が同等の割合にしておけばいいようにしたの。どちらが継ぐべきかは私が決めるべきって託されたのよ。重いわ・・・。」
実家を支えることになったのだ。株式をもっていることは経理担当にしか知らされておらず、配当をもらっても振り込みだから公になることもないままなのだ。楓はそういうことがあったからこそ気になったのだろう。自分もかすかに覚えている程度に後悔という文字が浮かんだことに。
「俺は思っているほど後悔もない。事件を追うことになっても警察が解決するかどうかもわからない事件なんだよ。だけど、伝えることを怠ることもできないんだ。全うするべきだからね。」
「そうね。その様子だったらよさそうね。刑事のおじちゃんに話しかけたときは何の話かと思ったら仕事に関することしてたのね。まぁ、わかっている人じゃないと聞けないものね。」
楓はそう言ってお茶を入れてきたコップを飲み干して2つをもっていなくなった。彼は残されたものは後悔でもなかった。事件をできるだけ多くの人に伝える方法を考えるべきなのだ。処刑台はヒーローになった。ブラックリストもまたヒーローとなっている。諏訪から受け取った資料を読んだ。新聞が仰ぐような言葉を書いているわけでもなかった。ネット上で発生してネット上で完結しているようにも思えた。興味を引くような言葉はかけないと思った。事実をねつ造する力なんてもっていないから。