始まりの終わりを告げる
「そんなことはわかっていますよ。俺にも大切な家族ができたんですから・・・。」
「せやったら償う必要はないわけなんか。貴方の言い方やったら・・・。何人も人を殺しておいて収まりが悪いわ。自分のことばかりを優先してしまって最後は生みの親のことすらも何も思ってないと違うん?」
金城はコーヒーで汚れた床を見つめながら言った。歯切れの悪い言葉をつなげる黒岩には悪気ないようにしか見えなかった。奥さんもとやかく言うつもりもないらしい。加賀美はボイスレコーダーを握りしめた。
「加賀美、今からでも記事を書いてこい。悪気ない思っているようやし、弁護士業務に怠りもないようやから目の前は警視庁やし、記事を書いたら飛びつくかもしれへん。」
その言葉を聞いて怯えているのはかおりのほうだった。脅しにか思っていないのだったら手の内どころは沢山あるのだ。元週刊誌の記者だった沼田を呼んでもいいのではないかと思った。
「俺には家族を守る義務があるんです。貴方たちに運命を変えられたくない。」
「義務がある言うんやったらまず償いやろ。あんたは何人殺しているんや。ネット上で殺してへんのならまだしても証拠が挙がっている状態でどうしょうもないで。逃げ切ってしまったとでも思ったんか。」
金城の思いを伝えるすべもないこともわかっている。加賀美は机に置いてあったボイスレコーダーを切って取った。上着にボイスレコーダーを入れた。なんだかんだ言って此処には2人だけではないのは金城が現れたときに何となくわかった。きっと諏訪も気になってきているのだろうと思った。金城は加賀美の肩に手を置いた。耳元でささやいた。
「えぇか。お前が此処を離れても部長がおるわ。だから気にせずに記事を書いてこい。最新に載せるようになるやろな。」
「わかりました。」
加賀美はそのまま出て行った。加賀美が出て行くときに後ろで泣き叫ぶ声が聞こえた。まるで全てを殺されたような感じだった。加賀美は来た道を帰った。会社のビルについたときには息が上がってしまっていた。社会部のところについたときには誰しも振り返った。
「どうだったんですか?」
「引き下がらないこともあって記事を書くことになりました。今、金城さんと諏訪さんがいます。」
「そうですか。1度あった時は人が好さそうな弁護士さんだったんです。残念です。検事をやめて大手の事務所からも見放されたと聞いたときは驚いたんです。」
彼は過去に会ったことがあるのだという。社会部なので弁護士に法律を教えてもらった経緯もあったのだ。荻元の事務所ではあまり期待を受けていなかったことも知っている。それでもやっていることは同じであるようだ。




