陽と陰
突然問われた質問に何ら戸惑った様子もなく、彼女は回転いすに座った。
「知ってました。何処か世間には立ち向かえない何かを抱えていることくらいは。」
「止めようと思わなかったんですか?」
「現場を見ていれば確実に止めていたと思います。それもなかったんです。警察も大きく騒ぐこともなかったんです。ただ、夫がパソコンで約束を取り付けたのを見たときはさすがに止めました。もし向かってしまったらぼろを出しかねないと思ったんです。」
黒岩はそれでも言ったのだという。すがすがしい表情をした顔を見たときには何も言えなくなってしまったんだという。
「彼があったのは刑事の息子なんです。父親の意思を継いだ喫茶店のバリスタなんです。彼もまた何かをもっていたわけでもなかったんです。俺もこの事件を調べたのは上司に言われたのがきっかけだったんです。」
運命という言葉で終わらすには何処か物足りないと思ってしまった。金城はソファに座っているのが、億劫になってしまったのか立ち上がった。
「あんたらの戯言は終わりか?」
「貴方も被害者だというのならわかるでしょう。無念さが。」
黒岩は強く言うと金城はにらみつけるようにしている。
「俺はな、あんたらみたいに業を業で燃やすほど愚かやないんや。そんな無駄なことをしとる暇があるんやったら正義とかの議論もせん。ただ日常を暮らすだけでええねん。」
黒岩にはきれいごとに聞こえたのか、乾いた笑いが狭い部屋に響いた。かおりはそれをそっと眺めているようでもあった。
「そんなことを言って卜部恭介を殺したいほど憎んだときだってあったでしょう?」
「まぁ、あったわな。けど、幼すぎて忘れたわ。目の前に仇がおったわけやないし、俺はその前に救われとったからな。」
津田事件の犯人が分かっているからこそ行えた事件でもあると思った。金城もそれに気づいているのだ。「それより津田事件の真犯人っていうのは誰や?」
「卜部光明です。卜部恭介、良助兄弟の父親でことの発端の人間です。津田事件の被害者も闇取引の噂があったのを黒岩幸吉が握りつぶしたんです。拳銃の取引での金額の配分で争いが起こった末の結末だったんです。」
黒岩は自分がその拳銃の取引にかかわっているのをバレたくなくて握りつぶすことにしたのだ。弁護士として名を上げていた荻元もまたそこにかかわっていたために金で黙らせようとしたのだ。警察も関係者がいたのか、あまり反発が起こらなかったらしい。
「世の中はそんなものですよ。」