冷えた音
大学であった時が最初だったが、彼女とは気に食わない感じがしてならなかった。それでも言い合ったとしても心が晴れていくのが分かった。彼女は就職をすると知った時も応援をしていた。
「何処かの大企業にでも入るのか?」
「入ろうかなとは思っているわよ。親も許さないからね。同じくらいの会社に入らないと気に入らないのよ。世間体ばっかり気にして何も変わらないから。」
カフェでつぶやく姿に惚れていたのかもしれない。同じような環境でありながらも戦っていく姿を見ているようでもあった。黒岩はその時には法科大学院に入らないといけないための試験に向けてやっていたのだ。検事になるには登竜門と言った感じなのだろうか。そこに向けて勉強する姿をバカにすることもなかったのだ。
「ちゃんとやっているのね。貴方って。見た目はそうには見えないのよね。法学部にいるのに何処か別の学部の来ない学生にしか見えないの。」
「それは教授にいわれる。けど、成績とか見るとキチンとしているから何も言えないっていうんだ。可笑しいだろう。」
笑いあった時もつらいときも同じように話しているうちに付き合うようになっていた。大学院生の時であまりお金ないときもわかっているから何処かへ出かけることは少なくなっていた。それでも彼女は不服を言うことはなかった。
「それでも言えないことはあったんです。津田海と秋絵の息子だっていうことです。真実を告げることでもともと黒岩の家の人間じゃないとは伝えていても言えなかったんです。処刑台の事件にかかわっていることも。」
悲しみに埋もれてしまった彼の顔にはきっと大学生の時のことを語っていた時の初々しさすらも残っていないのだろう。犯罪者の息子であることや犯罪者になってしまったことを打ち明けることはできないと覆ったのだ。
「加賀美さん、俺はね。彼女には普通に暮らしてほしかったんです。大企業の娘だって色眼鏡で見られてきた人生から変えたかった。それしか恩返しができないと思った。弁護士になる時も説得をしたのは最終的には彼女だった。わざと大企業の娘だということで引き下がるのを見えていたのだと思います。」
それを言うのは心苦しいところもあって後で謝ったが彼女は楽しそうに笑っていた。そんな感じでいいのだと。弁護士というのは優しさがないとできないのだとも言っていた。
「それでも貴方は続けていたんやろ。処刑台からブラックリストに名前を変えてまでしとったんやからな。」
金城の冷たい声が響いた。