満ち欠け
「けどなんですか?」
「貴方に会って運命というものが変わったと思いました。貴方はその答えを知っているんでしょう。」
黒岩はあざ笑った表情をした。まるで見当違いな意見を言われたかのように。加賀美は何処か太刀打ちができないように感じたときにドアが勢いよくあいた。
「えらい立場になったもんやな。聞いたで。黒岩幸吉と妹尾一臣が死んだあとくらいから態度が変わってな。近所の食堂にも顔出さないようになったとも言ってたわ。」
少しよれたシャツに明らかな口調は乗り込むのを知った上なのだろうと思った。
「貴方はいったいなんですか?」
「なんですかなんて言わんでもわかるやろ。俺も日楽新聞の社会部の記者や。それも卜部恭介に殺された金城正一の息子の伯や。この事件と無関係やあらへん。俺も伊達に記者をしとるわけやないのはそこの加賀美が知っとる。貴方よりもな。同席させてもらうで。」
黒岩は金城が突然、現れたことによって展開が変わってしまうのを恐れておたおたし始めた。加賀美なら今の態度をしていてもよかったのだろうが、上司が現れたとなると恩を売ったほうがいいと思ったのだろうか。さっきよりもいいコーヒーカップにコーヒーを入れた。ソファにも横暴な態度を改めた。
「小さい事務所から始まったわりには金をもっているんやな。もっと金なんてもってないと思ったけどな。萩元っていう悪徳の弁護士のところでろくに仕事もさせてもらえなかったって聞いたからな。」
「何処まで知っているんですか?」
「俺はなんでも知っているんや。日楽にはな、週刊誌記者やった人がおってな。そいつがよりによって黒岩幸吉を追っていたんや。そのこともあってよう知っているんや。」
荻元法律事務所にいた経歴も分かっていることが金城の言葉でわかったのか、彼は倒れこむように座った。その場にあったコーヒーカップを床に投げつけた。割れたコーヒーカップにまだ残っていたコーヒーの黒さが散らばっていた。
「そのままでいい。俺が片づけるから。・・・そうですよ。俺がジャッジマンです。どうせ証拠をもってきているんでしょう?加賀美さん。」
加賀美は鞄から音声解析をされた資料を見せた。その資料を眺めると寂しそうに笑った。
「俺の人生は黒岩幸吉につぶされたんですよ。俺の本当の親を殺されたんです。何処かで本当の親とは違う恐れた扱いをされていたのでわかりますよ。」
小学生の時に本当の笑顔を忘れてしまったかのように作り笑顔をしていたのだという。そこから本当の親ではないと知ったのだという。