打ち明けの時間
彼女はその家族写真を見て思ったことがあるのだという。
「楽しそうにしている割には何処か寂しそうなんですよね。何時か聞きたいとも思ったこともあるんですけど、そのことに関しては壁が見えてしまって・・・。」
「そうなんですね。」
「何か予定があるんですよね。すいません。長々話をしてしまって・・・。」
そういって加賀美のそばから離れていってしまった。加賀美の心の中にはうやむやになってしまったものもあるのだろうと思った。黒岩法律事務所のドアが開いた。
「加賀美さん、いらしていたんですね。」
「はい。」
「なら変な遠慮なく入ってくれればよかったのに・・・。」
先ほど管理会社の人に会ったことを話すと黒岩はそうかといって笑った。此処の管理会社は何処かしっかりとした管理の上に入り込まない部分があるので安心しているのだという。事務所の中に入ると以前より人が増えているような気がした。
「加賀美さんならわかりますよね。事務の人だけ雇っていたんですけど、パラリーガルにしてほしいという人が来たので受け入れることにしたんです。司法試験に落ちていることもあって勉強に頑張っているんですよ。」
彼の誇らしげな姿が光っているのに、影を映っているようにも見えた。ソファも少しだけ大きくなっていた。これから取材を受けることも誇りに思えるほどなのだ。
「彼は日楽新聞社会部の記者さんだ。加賀美仁さんというんだ。俺を見出してくれた人なんだ。君もしっかりとアピールようにしろ。」
部下に指導している姿も見せなかったうえに謙虚さもあったのに変わってしまったと思ってしまった。コーヒーをテーブルに置かれていた。その前にボイスレコーダーを置いた。
「加賀美さん、それで聞きたいことってなんですか?」
「俺はある事件を裏で追っていたんです。そこで思わぬところで犯人に出会ってしまったんです。それも壮絶な過去の持ち主に・・・。」
「それはいったい何の事件なんですか?」
加賀美は事件の名前を打ち明ける前にコーヒーを一口飲んだ。喉が潤うと何かが変わるわけではないが、少しでも間を持たせておきたかった。黒岩は何処か早くいえとでも言いたげな目で迫って来た。
「ブラックリストと処刑台の事件です。」
彼の少し驚いたような顔をしたのを見逃さなかった。突っつかれても困る部分に入り込むのを確信してしまったのだ。
「今も話題になっている事件を追っているのはすごいですね。」
「俺はずっと追っているわけではなかったんです。けど・・・。」