表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キャプテン・ノーフューチャー! 工具精霊とDIYで星の海へ!  作者: やまざき
第二章 バース・オブ・キャプテン・ノーフューチャー
30/51

ドノヴァン一味との闘い③

 ムーンドッグの洞窟に戻り、メルに洞窟内の岩を取り込んでもらって素材の性質を確認した。それは、ただの岩なのか何らかの鉱物を含んでいるか、だ。

 こっちの月も、アポロ十一号でアームストロングとオルドリンが採取したサンプルと同じなら…高確率で欲しいものに出会えるはずだ。


『あった! ガンちゃん、アルミがあるよ!』


 そう、アルミニウムだ。月はアルミを含む鉱石が大量に分布しているんだ。普通なら化学処理でアルミを抽出する必要があるが…こっちにはメルがいる。

 必要な量が確保できるまで、砂でも岩でも何トンだって取り込んで、その場で精錬と加工まで行える。


「くく、思った通りだ。メル、どんどんアルミを集めてくれ。ワン公、お前は動ける奴を全員使って洞窟の壁を掘りまくれ。集めたアルミで、面白れぇモン作るぞ」


『また悪い顔しちゃって…もう、ガンちゃんは仕方ないんだから』


《よく分らんが、そうしよう。皆、力を貸せ!》


 それじゃ、オレは作るものを設計しよう。

 砂の上に胡坐をかいて、目を閉じて頭の中にムーンドッグの姿を再現する。連中の体の構造は、さんざん撫で回して把握済みだ。

 人間とムーンドッグが戦う場合、何が弱点となるのか。敏捷性は圧倒的に優位だ。

 しかし、ボウガンや大砲といった飛び道具を使う人間に対して、こいつらは牙と爪という至近距離でしか戦えない。


 戦闘で大事な要素はいくつもあるが、相手の手が出せないところから一方的に攻撃できる…制空権や射程距離というものは、とりわけ重要だ。

 ムーンドッグがドノヴァン一味に狩り殺される理由は、ここにある。距離を詰めれば人間がこいつらに勝てるはずがない。


 だから距離を詰める方法と、そのための道具がいる。

 オレは頭の中に再現したムーンドッグに、アルミで作った鎧を着せていく。動きの邪魔にならず、致命傷を避ける形を模索する。

 そして、いくつか持ってきた重力等化装置も取り付けられるようにする。これがあれば、鎧の重さを無視することだってできる。


『ガンちゃん、けっこう貯まったよ。作るものは考えたの?』


「ああ、できた。おーいワン公、ちょっと来てくれ」


《む? どうしたガンマ》

 

「今からお前で実験をだな…まて、嫌そうな顔すんな。今回は撫でたりしないから、そんな目で見んなって。オレと死んでやってもいいとか言ってたじゃねえかお前」


《それは戦いの場でのことだ馬鹿者。お前に尻尾を振るつもりはない》


「まあまあ、ちょっとそこで待っててくれ。メル、設計図を渡すよ」


 脳内スイッチを入れて、オレとメルは設計図を見ながら意見を交換する。ワン公には数秒ほどの時間だが、オレたちにはそれで十分だ。


『じゃあ、テスト用のを作るね』


「ああ、頼む」


 右腕に戻ったメルは作る物のサイズが大きいせいか、水銀の風船のように膨らんでアルミの鎧をパーツごとに作り出す。

 鎧は頭、背骨、肩から胸、前足のスネ当てで全部だ。


《これは何だ?》


「お前の鎧だ。実際に着けて、動きの邪魔になったりしないか試す…こら、じっとしてろ!」


《おい、そんな物を身体につけるなんて嫌だぞ! おい! 触るな、くすぐったい!》


 ホントめんどくさいワン公だなお前は。重力等化装置んときも似たようなこと言ってただろ! めっ! 大人しくしなさいっ!

 尻尾を掴み、馬乗りになって鎧を着せようとするオレと、ロデオみたいに跳ね回って振り落とそうとするワン公の熱いバトルはお互いが力尽きるまで続いた。


『…とりあえず、着せちゃうね?』


「うう…お願いします…あー疲れた。指を動かすのもダルい…」


《く、屈辱だ…》


 ヘロヘロになって寝転んでいるワン公に、メルがさくさくと鎧を着せていく。余計な体力使わせやがって、この鎧は防御だけのモノじゃねえんだよ。切り札なんだから、ちゃんと試して確認しないとダメなんだ。


《むう…変な感じだ。動きにくい》


「どう動きにくい? 鎧の重さなら前につけた軽くするアレで消せるぞ」


《いや、一度このまま走ってみよう。構わないな?》


「任せる。お前の意見で改良した鎧が、お前の同胞を守る。あまり時間を取れないだろうから、動きやすさを重点的に確認してくれ」


《いいだろう》


 お互いに目線を交わして頷き合うと、メルが首をかしげて呟いた。


『ふたりとも、ケンカばっかりしてるのに仲良しだよねえ』


「《良くないわ!》」


 カンペキにハモってしまった。すげえ気まずい。


「《真似すんな!》」


「《…お前が真似してるんだろうが!》」


『ぷふっ…あはははははははっ!』


 オレとワン公が取っ組み合っていた辺りからギャラリーが増えていたのは知っていたが、メルが吹き出したのと同時に周囲が爆笑する。

 オレが洞窟に来た時に死にかかっていた戦士も、飢えて動けなかったやつも、痩せて歩けなかった子犬も、みんなで笑ってやがる。

 笑わせるのは嫌いじゃねえが、笑われるのは…ちょっと恥ずかしいが、まあ…悪くねえ。


《いやはや…戦士よ、ガンマ殿とお前は存外に似たもの同士よな。それ、何か頼まれておるのだろう? 早く行くがよい》


《ぬむむ…首長よ、そのようなことは断じてありませぬ。では》


 ワン公はさっと洞窟を飛び出して行った。脳内設計で細かく詰めたから、あまり動きの邪魔にならないとは思う。

 でも、実際に使わないと見えないことも多いんだ。特に武器や防具みたいな命に関わるモノは、いくらテストしても十分と言えない。

 実戦で性能が証明されることをコンバット・プルーフと言うが、あの鎧は作ってからたった一二度のテストだけで実戦に使われる。

 

 その鎧に命を預けるのは、作ったオレじゃなくムーンドッグの戦士たちだ。〈銀の弾丸〉号も、槍もオレが自分で使うものだ。だから、不具合があっても全部オレの責任で済む。

 けれど、今回は自分以外が使う。さんざん色々な物を作ってきたのに、今になって作ったものに対する責任を思い知らされるのか。


《ガンマ殿、あやつに先ほど被せていたモノ…ヨロイと仰ったか。どのような物ですか?》


「ああ、そうか…完成する前に知っておいてもらった方が良いな。首長さん、説明するから戦士を集めてくれないか」


 集まってきたムーンドッグの戦士六匹と首長さんに、鎧について説明する。自分の毛皮の上に何かを着ける、という彼らの文化には存在しないモノを受け入れてもらえるよう、できるだけ言葉を尽くした。


《ふーむ…なるほど。硬い皮を増やす…ですか。これで無法者どもが飛ばしてくる武器から身を守れるなら、ずいぶんと楽に近づけるというものだ》


《しかしガンマ殿。奪われた鉱山の周囲はまっ平らな砂地だ。ヨロイがいくら良いものでも、何度も武器を飛ばされては…近付くまでに当たってしまうのではないか?》


《そうだな。輪のように崖で囲まれた砂地の中央に鉱山がある以上、どこから攻めても距離は変わらない…いっそ、分散するのはどうか?》


「戦力は分散しない。理由は攻撃の衝撃力を捨てることになるからだ。距離を詰めるまでに敵に発見され、一方的な攻撃を受ける不利は…今から見せるこいつで打ち消す。メル、頼む」


『はーい。軽くて丈夫にしたよ! 自信作!』


 メルと考えた、もう一つの鎧。それは上から見るとU字型の、深い傾斜と覗き窓がついた大盾だ。大きさは高さ一・五メートル、幅二・五メートルで、長さは四メートル。素材は厚み一センチのアルミ板で、表面は太陽光でギラつかないよう梨地にしてある。


「ありがとな。さて、この大盾をどう使うか、という話だ。当然、こんなでかい金属の塊なんか普通持てるハズがねえ。だけどな、重力等化装置ってモノを取り付ければ…指一本で持ち上がる」


 大盾に重力等化装置を取り付けてスイッチを入れ、指先で軽く持ち上げて見せるとムーンドッグたちがどよめく。


「仕掛ける時は、全員で大盾に隠れて一気に距離を詰める。突っ込んじまえば、連中は同士討ちを恐れて飛び道具を使えなくなる。そして、近付いてしまえば…」


《ええ、無法者など我らの敵ではない! なるほど、これならば!》


 大盾を囲んで湧きかえるムーンドッグの戦士たち。そこに戻ってきたワン公は怪訝な顔で首をかしげるが、鎧の現物を見たがる仲間に引っ張られてやってきた。


「お疲れ。何か気になる部分はあったか?」


《うむ…いくつかあるが、この騒ぎは何だ? この変な物はお前が作ったのか?》


「まあ、後で説明するよ。先に鎧について聞かせてくれ、すぐに直したい」


 鎧の修正点はヘルメットで視野が狭くなることと、肩から胸を覆う部分の形状が前足の動きを阻害するという二点だった。さっそくメルに取り込ませ、脳内会話で改善したものを作って取り出した。


《ガンマ殿、人間はこんなに容易く物を作るのか?》


《昔に聞いた魔術師のようだ》


「オレは魔術師じゃないよ。こんなイカサマができるのは、メルのお陰だ。オレが考えたものを、何でも形にしてくれる。最高の相棒さ」


『えっへん♪ もっと褒めて良いんだよー?』


《メル殿はガンマ殿とつがいなのか? とても信頼し合っているように見える》


『つがい? なあにそれ、ガンちゃん知ってる?』


「あー…つがいってのはな、その…伴侶というか、相方というか…」


《メル殿。共に暮らし、子を作り、共に育てるのがつがいの相手だ》


 ぬあ。余計なこと言いやがって…オレの苦労を知らねえのか!?

 知らねえよな。そうだよなぁ…オレにとってメルは命の恩人で、誰より信頼する相棒で、手のかかる子供なんだ。

 だから、そういう微妙なお話はできるだけ避けて、心の準備と時間的な余裕を確保してからじっくり取り掛かろうと思ってるのに。なぜオレの計画には邪魔が付きものなんだ?


『ふーん…一緒に暮らしてるから、あたしとガンちゃんはつがいなの?』


《そうだな。互いがそう認めれば、つがいだ》


『ねえガンちゃん。あたしたち、つがい? ねえねえ』


 ああああクソ犬め。リア獣め。お前らとオレたちとじゃ文化も状況もちげえんだよ! この大事な時に異種族の結婚観とか聞かされても困るっつーの!

 メルはどういう答えを期待してんだ? オレはその答えを持ってんのか? それより、なんでオレこんなに追い詰められてんの!?


 YESと答えたなら。

 おめでとう、ガンマは上級職【右手が嫁】にジョブチェンジ!

 男の手仕事(意味深)を究めんと欲する、求道者の称号だぜ!


 心の底から嫌だ。そのカテゴリに入るのだけは断固として拒否する! でもNOと答えたら…きっとメルが悲しむ。それも嫌だ。

 クソ、汗が止まらねえ…なんて中途半端なんだオレは。

 もはやジョブチェンジか、と覚悟しそうな時。あたかも福音の鐘のように、シートン監査官から渡された通信機が呼び出し音を鳴らした。


「うわー通信機から呼び出しだー! 急いで出なきゃなあ!」


《こちらはガーニー警部補だ。ガンマ、聞こえるか?》


「聞こえるよエディ! あんたこそオレの守護天使だ!」


 イカついおっさんだけど、今ならチューしたいくらい愛してるよエディ!


《よく分らんがありがとう。こちらの準備は監査官のおかげで、予想以上に順調だ。そちらの状況はどうだろう?》


「こっちも問題ない。もう少しで鉱山のあるクレーターまで移動開始できる状況だ》


《それは何より。さすがは冒険少年ってところかな? 頼もしい限りだね。ところで、良いニュースと悪いニュースがあるんだが…どっちから聞きたい?》


 どうやらオレの守護天使は疫病神とのハーフらしい。こっちも中途半端かよ…


年内にこのエピソードを終わらせたいなあ。

ガーニーもシートンも好きなんですけどね、星間警察の人が出ると、

どうしてもメルが出られなくて。


***ここから引用のご紹介***

クァール…A・E・ヴァン・ヴォークト氏「宇宙船ビーグル号の冒険」より

重力等化装置…エドモンド・ハミルトン氏「キャプテン・フューチャー」より

ムーンドッグ…同上

ガーニー警部補…同上、エズラ・ガーニーより

シートン監査官…E・E・スミス氏「宇宙のスカイラーク」リチャード・シートンより


素晴らしい作品に敬意をこめて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ