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キャプテン・ノーフューチャー! 工具精霊とDIYで星の海へ!  作者: やまざき
第二章 バース・オブ・キャプテン・ノーフューチャー
29/51

ドノヴァン一味との闘い②

「そうだなあ…ずばり、魔性の女ってのはどうだ」


「いいわねそれ! さっきのファム・ファタールも捨てがたいけど…よし、魔性の女にしよう! 魔性の女、エリカ・シートン! うん、悪くないわ!」


 ムーンドッグの洞窟に向かう小型宇宙艇の中で、オレとシートン監査官は彼女の二つ名を決定すべく盛り上がっていた。

 そうしていたのだが…どうやら高校・大学・そして惑星警察の幹部養成学校と、誰もがうらやむエリートコースを順調に進んでいた彼女にも、満たされない思いがあるご様子だ。


「はあ…魔性の女って言っても、私この歳になっても初体験どころか、男の子とデートもキスもしたことがないのよね…お堅いって思われてるのは分かってるんだけど…私だって人並みにそういう感情あるわけ。わかる?」


「まあ…それなりに?」


「制服のスカートちょっと短くしたり、ボタン外して胸元開けても誰も気付いてもくれないし。スタイルそんなに悪くないと思うんだけど…やっぱりメガネがだめなのかなあ…コンタクトにしようかなあ」


「宇宙服の上からじゃスタイルわからんし、何ともいえねえなー」


「やっぱり監査官って仕事がダメなのかしら? 職場恋愛とは無縁の部署だし、出張ばっかりだし…もうちょっと出逢いのありそうな部署がいいのかなあ…」


 監査って仕事柄、出張は多いだろうな。他部署の人間と会うことは多いだろうけど、相手からしたら口うるさい小姑みたいな扱われ方だ。

 この人のことだから、腫れもの扱いされてんだろう。なんつーか、風紀委員とかそういうアレだ。でもオレが部外者で見た目年下だからって、ちょっとばかりぶっちゃけすぎてねえか?


「シートンさんは結婚とかしてぇの? キャリアコースなんだろ?」


「そうねえ…やっぱり、一回くらい結婚したいかなあ。ほら、お姫様ドレス着てみたいし。でも、相手はあんまり贅沢言わないよ? 私より収入が多くて、背が高くて、触り心地の良い男なら誰でもいいかなって最近思うもん」


 世間ではそれを贅沢と言うのです。

 あんたキャリア組だろ。身長以外のハードルめっちゃ高いだろ。どう見ても婚活で失敗するタイプです。本当にありがとうございました。


「ガンマ君的に、かわいい系とセクシー系。どっちがモテると思う?」


 あの、中身はおっさんだけど、見た目は十代前半だぞオレ。てか、この話題まだ続くの? オレもよく付き合ってんなこれ…早く洞窟に着かねえかな。ワン公は放心して使い物にならねえ…誰か助けてくれ。


 結局、洞窟に到着するまで藻女トークがグダグダと続いた。この会話、全部メル聞いてんだよなあ。あとで変なこと言い出したりしねえよなあ。

 こういうのって、精霊でもいずれ通る道…なのか?


『それで、ガンちゃんはどっちが好きなの?』


 オレはきれい系だ。

 いや、そうじゃなくて。やっぱり聞いてたか…


『大家さんのお話とも違うし、けっこう面白かった!』


 まあいい、ボチボチ到着するだろう。おら、ワン公。そろそろシャキっとしろ。


《あ、うむ。ブザマをさらしたな》


 まったくだ。


 小型艇で洞窟に乗りつけると無用な混乱を起こす可能性があるので、少し離れた場所に着陸してもらって徒歩で向かう。

 基地の医務室で手当を受けた左足は、この短時間で痛みがなくなって普段通りに歩ける。有難いことだ。あの泡スプレーのキズ薬って、頼んだらもらえないかな。すごく欲しい。


《首長、皆、いま戻った! ガンマの他にもう一人いるが、そちらは客人だ。心配無用!》


 洞窟の入口前でワン公が宣言すると、砂に隠れていた門番が姿を現した。シートン監査官はかなり驚いたようで、短く息を飲む声を漏らす。


《おお、ガンマ殿。お戻りになったか…して、そちらの人間はどなたかな?》


「ただいま首長さん。こちらは星間警察のシートン監査官だ。あんたたちの鉱山を取り戻す味方になってくれる」


《それは…シートンカンサカン殿。ご高配に感謝いたす》


「ご丁寧にありがとうございます。監査官は役職名なのでシートンとお呼びくださ…っ!」


 ワン公とオレの帰りを聞きつけた子犬どもが、首長さんの後ろからヨチヨチと出てきた。それを見た監査官は、ぱあああっと顔を輝かせてモジモジし出した。


《かみさまおかえりなさーい》


《おかえりー》


《あそんでーかみさまあそんでー》


「よう、ちびっ子ども。オレは首長さんとお話があるからよ、こっちのお姉さんに遊んでもらいな」


 監査官が期待に満ちた目で見てるので、心ばかりの感謝を込めてパスを出す。


《おねえさん?》


《だあれ?》


「わ、私ことはエリカお姉ちゃんって呼んでね!」


 喜色が溢れる監査官。サムアップしてやると、両手で返してきた。ちびっ子どもとしばらく遊んでもらうとして、先にオレたちは報告をしよう。


「さて、星間警察ってのは知ってるか首長さん」


《人間の集まりだという事くらい…ですな》


「そうか。んじゃ、そこから説明しよう。ムーンドッグには、掟ってのはあるだろ? 人間にも掟があるんだ。法律っていう名前なんだけどな。仲間から奪ったり、仲間を傷つけたりした者に罰を与える掟だ」


《ふむふむ。確かに我らにも同じような掟がありますな》


「人間は数がすげえ多いから、掟を破るやつも多いんだ…情けない話だけどな。で、その掟を守るための群れを作ることにした。掟を無視する奴がいないか見張ったり、それを破って逃げた者を追って捕らえるのが、星間警察ってわけだ。ここまではいいか?」


《なるほど…》


「ムーンドッグの鉱山を奪った連中は人間の掟を破っている。そのせいで首長さんたちが酷い目に遭っているって、オレとこいつで星間警察に知らせた。勝手な真似だって怒るかい?」


 人間と文化の違いがありすぎるムーンドッグにも、できるだけ伝わるように話したつもりだが…分かってもらえるだろうか。

 そして鉱山の奪還が成功した後に、彼らの居場所を人間の法が守ると知ったら誇りを傷つけることになったりしないだろうか。そこまで責任は持てないけど、できるなら気高いまま在ってほしい。


《いいえ、ガンマ殿。これまでの我らは、子らの飢えを満足に満たせませなんだ。恩人のご厚意で傷つく誇りならば、打ち捨てても構いませぬ》


《首長…我はあなたを長と仰げることこそ、誇らしく思います》


「まったく同感だ。で、話を続けるが…星間警察に協力を頼んだ時に、あんたたちが本当に困っているのか自分の目で見たいって話になってね」


《それで、あのシートンという人間と一緒に来たわけですな…今は子らの下敷きになっておりますが…》


「あれは…うん。ほら、長い間まともに食えてなかったって言ったから…た、たぶんちびっ子の体重を体で測っているんじゃないかな!?」


 あんた仕事で来てんだから、ちょっとはそれっぽくしろよ…最初はキャリアエリートな感じだったのに、今じゃ残念エリートだ。


「おい、シートン監査官。動物好きはいいが、ちょっとお楽しみが過ぎてねえか?」


 ひとこと苦言を、と近付いてみればデレデレに笑み崩れて、まさに全身全霊で子犬を甘やかしている。


「うん、堪能したわ。もう十分…っていうか、限界。ガンマ君、群れのアルファ…ああっと、首長でしたっけ。会わせてくれる? はーい、ごめんねみんな! エリカお姉ちゃんも首長さんとお話があるの。また今度遊ぼうねー」


 もっと遊ぼうとねだる子犬を優しく撫でて、意外なほどあっさりと立ち上がった監査官は大股で首長の元に向かう。おい、怒鳴りこんだりしないだろうな?


《シートン殿、いかがされた?》


「…あなたが首長ね? この群れに成体…大人のムーンウルフは何体いるか教えてください」


《…十九ですな。少し前は二十八で、夜明けの時は三十三でした》


「子供は、私と遊んでくれた二十で全部ですか?」


《ええ。子は二十から減っておりませぬ。最近では増えてもおりませぬがな》


「答えてくれてありがとうございます。最後に、あの岩棚にある鉄で…いつまで持ちこたえられますか?」


《…次の夜までは難しいでしょう》


「分かりました…質問は以上です。私は、自分の裁量が許す全てと、動かせるすべてのリソースを使ってでも、貴方たちを擁護すると誓います。私の、誇りにかけて」


「それは…そいつは有難いけど、監査官あんたいいのか? 安請け合いされて、ぬか喜びになるのはこいつらだぜ?」


 子犬どもと遊んで、二つ三つ質問しただけで質問は以上だの、誇りにかけて擁護だのって、そりゃ嬉しいけど…あんまりにも軽く見えてしまう。

 思わず疑念を口にしてしまったオレに、シートン監査官は茶色の目に底冷えする光を宿して振り向いた。


「構いません。君は知らないでしょうけど、私すごく優秀なの。仕事柄、法律の抜け道だっていくつも知ってる。他の省庁に友達もそれなりにいるわ…その子たちを脅迫してでも動かして見せる」


 すげえな監査官。自分で優秀って言い切れちまうのか。

 ところで、すんげー怒ってるけど…それは私憤と義憤と公憤のどれなんだい? あと、ここでちょっとでも泣いて見せると男にウケると思う。


「全部よ! あと余計なお世話! …と、言いたいけど参考にさせてもらう。付いてきて」


 では、ときれいに海軍式の敬礼をしてシートン監査官は再び大股で洞窟を出る。オレはそれを追って、乗ってきた小型宇宙艇まで小走りについていった。


「ガンマ君…あの群れは限界だわ。とっくに限界で、あなたと出会わなければ次の夕暮れまでには共食いしないと生き延びられなかったでしょうね。どうしてそんな事がわかるのかって思ってる?」


「ああ、思ってる」


「成体の減少率よ。幼生が増えないのはまだ良いとしても、成体が減り方が悲劇的と言っても足りないくらい。月の自転は地球の二十七日で、この周辺は三日前に夜明けを迎えたばかり…たったそれだけの間に群れは壊滅寸前まで追い込まれている」


「…そこまでなのか?」


「ええ。もう一日だって時間がない。他にも同じような群れがあるはず。そして、その群れはあなたと出会えていない分、きっと…もっと悲惨な状態にある。私はそれを許さない。ムーンドッグの誇りが絶滅を許容したとしても、私のエゴが絶対に許さない」


「エゴなのか?」


「そうよ。私は神様じゃない。だから、これからする行為が救済だとか、慈善だとも思わない。私は私の意志でムーンドッグに生きて欲しいだけ。この後で死んでた方がマシだって思われる日が来るとしても、知ったことじゃないわ」


 なんとまあ、清々しいほどに自己満足を肯定しちゃったよ。なるほど、確かにそりゃエゴだ。

 今回は、()()()()ムーンドッグと彼女の希望が一致しているだけだと言いたいのか。素直じゃねえなあ。


「当たり前じゃない! だって私、魔性の女だもん。そうでしょ?」


 たいした魔性だ。うっかりしたら惚れちまうね。


「あと十年経ったら口説いてちょうだいね。今はダメよ? キャンディはないけど、通信機と重力等化装置の交換コイルと電池、それと少しだけど食料を置いていくわ。基地に戻ってガーニー警部補のお尻叩きまくって急がせるから、君もできることを進めておいて」


 ぽいぽいと品物が入ったパッケージを放って、言いたい事を言ってシートン監査官は小型艇を発進させた。


「やれやれ、何とか星間警察を味方にできたな。いろいろヤバかったけど…なんとかなりそうだ」


『ガンちゃんおつかれさま』


「ありがとよ。でも、やっと準備が済んだところだ。ここからが本番さ、そうだろワン公?」


《戦士たちには我から話しておいた。星間警察と時を合わせて襲撃をかけるのだろう?》


「恐らく時間差をつけた陽動と攪乱になると思う。頭数的に、あっちが陽動でオレたちは攪乱になるんじゃねえかな」


『よくわかんない…』


「悪りぃ。えーとな、星間警察が派手に大砲撃って、ドノヴァン一味の注意を引くんだ。オレたちは、奴らが警察との戦いに夢中になってる間に…ドノヴァンを仕留める。ムーンドッグで言えば、首長を狩るってわけだ」


《なるほど。首長が倒れたなら、群れは少なからず動揺して統制が乱れる》


「オレとお前らは、あのドンパチの中でドノヴァンがどこにいるか探して狩るんだ。言うまでもねえが、無事に済むと思うなよ」


《望むところ。同胞のために戦うのは、戦士の誉れというやつだ》


 口の端から青白く光る牙をのぞかせて、ワン公が不敵に笑う。こいつの表情、なんとなく分かるようになっちまった。頼もしいね、まったく。


『ねえガンちゃん。それで、今度はどんな悪だくみしてるの?』


 さすが相棒、わかってらっしゃる。

 ここまでかけて、情報と味方を集めた。目標も定めた。最後は武器だ。見てろ、ドノヴァン一味のド肝を抜いてやる。


「考えがある。とびっきりのやつだ」


さて、ようやく準備が終わって決戦に挑みます。

ここまで読んでくださった方にはご理解いただけると思いますが、

ガンマってメル抜きだと、物理的な戦闘力は武装した大人と一対一で

勝てないレベルで弱いです。

意地と工夫で敵を出し抜く、というタイプの主人公が好きなんです。


***ここから引用のご紹介***

クァール…A・E・ヴァン・ヴォークト氏「宇宙船ビーグル号の冒険」より

重力等化装置…エドモンド・ハミルトン氏「キャプテン・フューチャー」より

ムーンドッグ…同上

ガーニー警部補…同上、エズラ・ガーニーより

シートン監査官…E・E・スミス氏「宇宙のスカイラーク」リチャード・シートンより


素晴らしい作品に敬意をこめて。

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