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キャプテン・ノーフューチャー! 工具精霊とDIYで星の海へ!  作者: やまざき
第二章 バース・オブ・キャプテン・ノーフューチャー
23/51

月世界のガンマ①

ここから第二章になります。いやあ、長かった。

 私を月まで連れて行って、というジャズナンバーがあったなあ。タイトルだけ思い出したけど、曲の中身までは…今はそこまで頭が回らないな。


《ふぎゃあああ! あいつ落ちたにゃ!》


《なんですってええ!?》


 廃船(鉄くず)同然のボロい着陸船は、コーヒー缶の口がぱかっと開いたように隔壁が崩壊して…まあ、要は船外に放り出されたわけだ。

 復帰できないか試したけど、どうにもツキに見放されちまった。今までのツケが回ってきたというところか。


《ガンマ! 着陸船を修理して、必ず迎えに行くにゃ! なんとか生き延びろ!》


《宇宙服の重力等化装置を使うんですのよ! 電池は節約して…》


 ヘルメットの無線が圏外になったようで、もうノイズしか聞こえない。海賊船の中でも離れたら通話できなかったから、そこまで出力が強くないのだろう。

 まあ、そんなわけでオレとメルは月面に向けて絶賛墜落中だ。ツキだけに。なっはっは。


『ちっとも上手くない!』


「まあ、そう言うなって。こっちも同じか分からねえが、月の重力は地球の六分の一だ。ララの言う通り、ベルトの重力等化装置を上手く使えば十分に軟着陸できる」


『…そっちは上手くできるの?』


「ジョークが下手でも、操作はイケてるつもりだ」


 それに、奥の手でメルに取り込ませておいた散弾用の圧縮空気がある。これを推進ガス代わりに使えば、ある程度の減速くらいできると踏んでいる。

 命がけの場面なんかな、頼んでもいねえのに最近じゃバンバン起きやがるんだ。まだまだ高度あるし、この程度じゃビビってやらねえよ!


 落下の恐怖というやつが一番強くなるのは、落ちたら死ぬと確信できる高さが最も怖いと思う。飛行機に乗ったりして高さがあり過ぎると、逆に怖くない。

 眼下に広がる月面は、純白の地平線が美しい弧を描いて宇宙の黒を切り抜いている。まだ十分すぎるほど高度があるんだ。

 もうしばらくは、この絶景を眺める幸せに浸れるというもんだな。


『きれいだけど…のんきだなあ』


「オレのいた国じゃ、月にはウサギがいるって話があるんだ」


『うさぎ?』


「そう、耳の長いあれ。あいつらが月で餅をついているって」


『うさぎさんが? へんなのー』


 そうだよな。初めて聞いた時は月で餅ついて何してるんだろうと思ったもんだ。ウサギは草食だろう? 食べないんじゃないのかって。

 こっちの世界じゃ双つ月は姉妹だそうだ。きっと美人姉妹なんだろう。


 月面は元の世界と同じく、空気がないようだ。表面のクレーターや岩の凹凸が写真よりはっきり見えて、比較物がないから距離感も狂う。

 だが、さっきよりも地平線の弧が直線に近く見えているから、高度はずいぶん下がっているに違いない。


 重力等化装置が頼みの綱だが、パラシュートみたいに早く開いても着地点がずれるだけで済むものじゃない。電池の残量という制限があるからだ。

 海賊船は月の周回軌道に乗っていた。つまり、オレの身体も月を周る速度を持っていた。

 いまは月の重力に引かれて、少しずつ速度を失いながら降下している…はずだ。機械はわりと得意だが、理系じゃない。


『けっこう落ちてきたみたいだけど…いま、どのくらいの高さなの?』


 それが分かれば苦労しないんだよなあ。

 空気抵抗がないから、けっこうな速度が出てるんじゃないだろうか。ええと…アポロはどうやって月面着陸してたっけ? 

 ああそうだ、減速だ。ここで圧縮空気の出番だ。


「メル。オレの合図で散弾を撃つ時の空気を、手のひらから少しだけ出してくれ」


『わかった。いつでもいいよ』


「じゃあ、せーので頼む。せーのっ!」


 それなりに重心を意識して、正中線で構えた右手から空気が噴き出した。減速できたように見えないが、どうなんだろう。


「もう何度か同じように頼む。どのくらい余裕がある?」


『うーん…ぶわーっと集めとけってガンちゃん言ってたから、けっこういっぱい』


 ですよね。何気圧で何立方メートルとか、そんなこと分かんないよね。ならば散弾の一発分を単位としたらどうだろう?


『それなら、うーん…五十発分くらいはあると思う』


「オーケー、十発分の空気を使って減速を試すぞ。せーのっ!」


 おお、今度は体感できるくらい速度が落ちた。ついでに落下速度が増した。いいぞメル、これなら減速して安全に降りられそうだ!


『やった! じゃあ、次の十発分いくよ?』


 結局、放物線を描く軌道から垂直降下と言えそうになるまで、散弾四十発分の空気を使って減速した。

 あわせて重力等化装置を動かして、ゆるゆると降下する。思い付きの間に合わせで、ぶっつけ本番の月面着陸にしては文句なし。


 もう一度やれって言われたら、ニール・アームストロングだって断るだろう。もちろんオレだって絶対お断りだ。


鷲は(The Eagle)舞い(has)降りた(landed.)、ってとこか」


 柔らかく積もった灰色の砂を踏み、見渡す限り荒涼とした砂と岩山が続く、モノクロームの風景の中に立った。


『なんにもない…こんなに広いのに、草も木もないんだ…』


 ぽかんとした顔でメルがつぶやいた。まったく同感だ。

 知識として記憶しているのと、実際にその場に立つのが違うと体験で学んだけれど…ここまで…こうまで違うと、圧倒される。

 つい半日前に宇宙に出て、いま月面に立っている。まったく…なんて日だ。


 ともあれ、無事に着陸出来てひと安心だが…これからどうしたもんか。

 水と食料はない。空気はしばらく心配ないが、ババアたちが修理を終えて迎えに来るまでどの程度時間を要するのか分からない。


『ねえガンちゃん、月には誰も住んでないの?』


「オレが聞きたいくらいだ。案外ウサギがいるかもだが、隣の国じゃ美人がいるって話もある。間を取ってバニーガールかねえ…」


 バニーさんをご存じないメルは首をかしげている。つい口に出ちまった。あれは…いいものだ。だから仕方ないんだ。


『なんとなく、顔見たらどういうものか分かった気がするんだけどー』


 じろ、と半目で睨んでくるメルだが、それは穿った見方というやつだ。オレがいつでも思春期の衝動に突き動かされている? そんなばかな!

 ほら、さっきだってアクシデントにも果敢に挑んで無事に着陸できたよ? ただのエッチ小僧にできることじゃないよ?


『それはそうだけど…あれ? なにか光った?』


「いや? 見えなかったけど…どっちだ?」


『あっち! ちっちゃい山のてっぺん!』


 メルの指を辿って目を走らせると、近くの砂丘で何かが瞬くように光っていた。動いているように見える…建物ではなく、生き物?

 とにかく、このままここで待っていても仕方ねえ。行ってみるか!


 足を引きずりながら駆け出したのはいいが、三百メートルほどだと思っていた砂丘までの距離は一向に縮まらない。これも距離感が狂うせいか。

 ならば、と重力等化装置のスイッチを入れ、極小まで重さを消して右足で踏み切る。まるで超人にでもなったかのような大ジャンプだ。


 五キロほどの距離を、わずか数歩で飛び跳ねて砂丘の中腹にふわりと着地する。なかなか愉快な移動方法だ。次も使おう。


 さて…何が光っていたんだ? ひょいと背伸びして砂丘の頂上を覗いてみると、ボウガンのような武器を構えた三人が、灰色の毛をした中型犬っぽい動物と戦っている最中だった。

 よく見れば双方とも手傷を負い、倒れている者もいる。


「なんだありゃあ…襲われてるのか? こんな誰もいない場所で?」


『ど、どうしよう!?』


 こっちは手負いで、あまり人前にメルの存在を知られたくない。だけど襲われている人がいるなら助けるのが人の道だ。

 迷うが、それは後からでもいい!


 槍の柄を握りなおし、踏み出そうとする直前にビリっとしたヤバいものを感じた。

 殺気…? ララやアーバレストとは違う、もっと剥き出しで粗い…そう、獣だ。


《お前も仲間か! 我が親と兄弟の仇ッ!!》


 脳ミソを砂の詰まった革袋(ブラックジャック)で殴られるような衝撃を受け、顔がのけぞり目玉が縦に揺れる。

 直後に月の砂と同じ色をした獣が、地を這うように走ってオレの脚に食らいつこうと青白く光る牙を剥く。防ぐも避けるも間に合わない…!


『この! ガンちゃんから離れろっ!』


 体勢を崩したオレをかばったメルが獣に散弾を二発撃つが、やつは敏捷に回避して距離を取る。なんだいまのは!? こいつがやったのか!?


《魔術師!? おのれ、小賢しい!》


『あうっ!』


 メルの悲鳴が聞こえ、右手に電流が流れたような痺れが走る。こいつだ! こいつは何かそういう攻撃をする!

 あれを喰らうと一瞬だけ身体を動かせなくなる。すぐ回復するけど、あれは…崩し技で本命が牙だ。チラっとだけ見たが、あの牙はやばい。


「仲間でも魔術師でもねえし、仇でもねえが…お前がやる気なら、遠慮しねえ」


 摺り足で距離を取り、脳内スイッチ・オン。


『大丈夫かメル?』


『うん。ちょっとびっくりしただけ!』


『犬か何かみてえだけど…あいつ、喋るぞ』


『うん。あっちの人たちと勘違いしてるみたい…』


『誤解だって分かってくれるかな?』


『どうだろう…でも、あの子なんだか辛そうに見えるよ。ガンちゃん…』


 そんな顔すんなよ。オレまでそうなっちまうだろ。でも、わかったよ相棒。その方向でやろうか! スイッチ・オフ。


 とはいえ、だ。あの崩し技を切り抜けねえと…槍どころか言葉も届かねえぞ。

 あ。ちょっとだけ…試してみようか。

 三十センチくらいの鉄の棒…二本でいい。出してくれ。


『うん』


 それと、メルちゃん。先に謝っておくけど、きっと許してくれるよね?

 

『え。なにそれ。ひどいって何する気ガンちゃん?』


《臆したか!? ならば死ね!》


 来た! 唸れ、メルシールド!


『ちょ!? きゃああ!』


 成功ッ! こいつの崩し技は、一度に一人しか効果がない! オレとメルの位置をやつから見て縦に重ねれば…オレに技は届かないッ!!

 そしてェ!


「そーら! 取ってこーい!!」


 右手から引き抜いた鉄棒を、ヤツの頭をかすめるように放り投げる。

 どうだ!? もしお前が犬なら、この本能に訴える必殺技…抗えまいッ!


《わうん!》


 また成功ッ!! そしてェ! 放った先は…あいつの仇らしい三人の方だ! これでオレは戦線離脱ッ!

 どうですかハッピーエンドですよメルさん! 最高ですかーッ!?


『うふふ…ねえガンちゃん? あたし怒ってもいいよね? そこに座ろう?』


 あ、はい。先に謝ったんですが…ダメ…ですよね。そうですよね。


せっかく第二章にしたんだから、エピソード名の方式も変えようかなーと思いました。

「ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」だと、ちょっと大仰に過ぎるなあ…てなわけで

「月世界の女」にしようと方向を変え、女じゃないよなあとガンマにしてみたら。

あれ? エピソード名がこれまでと変わってないじゃないか。

お話を書くと、こういうこともあるんですねえ…


***ここから引用のご紹介***

クァール…A・E・ヴァン・ヴォークト氏「宇宙船ビーグル号の冒険」より

重力等化装置…エドモンド・ハミルトン氏「キャプテン・フューチャー」より


素晴らしい作品に敬意をこめて。

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