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キャプテン・ノーフューチャー! 工具精霊とDIYで星の海へ!  作者: やまざき
第一章 修理屋のガンマ
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殴り込みに行こう③

 げっそりした気分で新しい武器の素材を渡すオレと対照的に、鼻歌まじりに上機嫌なメルは右手に戻って素材の吟味をしているらしい。

 ツナギ姿で耳に鉛筆をはさんで、腕組みして設計図とにらめっこするメルの姿を想像して、ちょっと癒される。


 メル、そういうのでいいんだ。

 オレも頑張って思春期を自制するから、どうかそのままでいておくれ。

 うちの子は物理的に親離れできないのに、すくすく成長してます。

 どうしたらいいんだろう。たすけて、教育者のひと。


「でーきた! 見て見てガンちゃん! あたし天才じゃない?」


 ドヤ顔ポーズで新しい槍の柄を右手から引っ張り出して、会心の出来だと胸を張るメル。

 すべて鉄で作った前の槍と違って、今度はマグネシウムの灰色がかった艶消しの銀地に、鈍く光る真鍮の輪が両端に嵌められている。


 材料はバイクのマグネシウム鍛造ホイールと、フロントフォークのアルミだ。

 どちらもこっちの世界では見たことがないので、貴重品だと言える。


「おお、かなりイイんじゃね? すごく手に馴染む感じ。さらっとしてるのに滑らねえ」


「でしょー? 砂浜で焚火した時を思い出したの!」


「焚火から何を思いついたんだ?」


「んとね、砂ってさらさらしてるのに、砂が付いた手でぎゅって握ると滑らないでしょ? 不思議だなあって思ったの。それでね、ガンちゃんの工具もさらさらで同じだったなーって思ってね、槍も、砂みたいなさらさらだったらいいのかなって!」


 やばい。

 着想して、考えをふくらませて、工夫したのか。

 メル、やばい。感動してちょっと泣きそう。

 チビに戻っちまったオレの背は、この半年で三センチ伸びた。

 それと同じか、それ以上にメルも過ごした時間と出会いを糧に成長してるんだ。


「すごいな、メル。オレも負けてらんねえわ」


「えへへへ」 

 

 嬉しそうに笑うメルを見て、踏ん切りがついた。

 戦おう。非日常に飛び込んで、また戻るために。


「待たせたな。オレの準備はできた」


 ババアの部屋で待つ三人に声をかけると、ローラとララが無言で頷いて立ち上がる。

 そしてもう一人…あれは…ババアだ。青春のトラウマとも言うべき、猫耳お姉さまに化けたババアだ。

 あれは乳と尻の暴力(ダイナマイト)。偽りの約束の地(カナン)。思春期の(デストラップ)

 ローラたちと同じ、ギリシャ神話みたいな服を着ているが…なんというか、きわどい。


「ババア、その…目のやり場に困るんだが」


 昔の戦闘機の機首に描かれた、半裸のピンナップガールみたいにパッツンパッツンだ。

 こんな時じゃなけりゃ、かぶりつきで鑑賞したい。


「にゃあ。それが目的にゃからな、お前も今のうちに見慣れておくにゃ」


 痴女か。金星の女神官はみんな痴女か。見せたがりとエロ本コレクターか。


「ジヌ=メーア様は【目の誘い】を好んで使うんですのよ、ガンマ様」


「こりゃ、ケイ=ララ。バラすのが早いにゃ。久しぶりにオスの視線を浴びてたのにゃ」


「あら、これは失礼を。視線は後ほど、たっぷりと浴びてくださいまし」


 目の誘い? 煽情的な格好でナニを誘うってんだ。これから殺し合いに行くんだぞ。

 ババアが強者であっても、油断していいことは無いだろうに。

 ローラもケイ=ララも笑ってないで、一言あっても良いんじゃねえのか?


「賊もガンマさんと同じように、見ちゃうんですよ。どうしても見ちゃうんです。男性だからこそ、ジヌ=メーア様の術にはまってしまうんですよ」


「くふふ。人間のオスは毛並みより乳だの尻だのに執心するにゃ。ほれ、ガンマ。触りたいにゃ? 抱きたいにゃ?」


 はぁ、と甘い毒を含んだ吐息が漏れて、濡れた唇をピンクの舌が這うように舐めていく。

 そして自分の胸を鷲掴みにして、ぐにゃりと揉みつぶして見せるババア。

 あからさまにも程があるのに、見てしまう。掻き立てられてしまう。


「くふふふ…いい子にゃあ…そうそう、そうやって見ていると…こうなるにゃ」


 ひやり、と首に冷たいものが触れる。真珠の艶を持つ、ぶ厚い鎌のような爪だ。

 あー、そういうことか。そういうことスか。

 見た目のエロさに気を取られてると…外科医のメスみたいに鋭くて、鎧だって裂く爪が、意識の外から飛んでくる、と。

 ホントに性格クッソ悪いな!? 男の本能を悪用すんなよ! 美人局よりタチ悪りィよ!

 

「まあ、お前らの槍ほどインチキじゃにゃい。そうにゃろ?」


 ぽん、とオレの頭に手を置いて、モンローウォークで尻尾を振りふりババアは出て行った。

 オレに手の内を実演して、戦ってる間に引っかからないよう気をつけろと言いてェんだろ。それが分らねえほどガキじゃねえ。


「女の武器を扱う達人ですわねえ…海賊狩り(ローレライ)メーアは健在と言ったところでしょうか。さ、参りましょうガンマ様」


 ララ、あれは参考にしなくていいと思うぞ。あと伝説のローレライにあやまれ。

 触れもしないのに命取られるとか、ほんとにひでえ美人局だ。しかも、美人と情夫が同一だときてやがる。最悪ってのはアレのことだなあ。


「戦いは苦手ですけど、足手まといにならないように頑張ります! 危なくなったら…助けてくださいね?」


 ローラ…あーなんか君は安心するなあ。エロ本コレクターじゃなかったら癒し枠の委員長系ヒロインだよねえ。

 だが、寝ていたオレの青少年をいじくり倒したことは忘れていない。あとで泣かすから覚えておくように。


「私だけ扱いひどくないですか!? 最初に始めたのローラですよ!?」


 そういやそうだった。ララ、お前もギルティ。

 こいつ売りやがった!? みたいな顔すんな。

 泣かすから覚えておくように。

 そういう意味じゃないから、嬉しそうな顔すんな。


「そら、着陸船は若い連中に持ってこさせたにゃ!」


 ごう、と風を巻く轟音が上空から響く。

 見上げれば、ショートのコーヒー缶を寝かせたような形の着陸船が浮いている。

 元はクリーム色だったのだろうが、雑な補修でツギハギだらけだ。

 外板の合わせ目からオイルが漏れ、錆と焼け焦げたような煤にまみれている。

 ガラクタ以上ポンコツ未満、といった感じ。


 なんとも鈍重そうで不格好な着陸船だが、あの形で逆噴射をほとんどせずに垂直降下を開始して、目を疑った。


「重力等化装置ですよ、ガンマさん」


 どうもオレは相当顔に出るタイプらしい。

 ローラがくすくす笑いながら説明してくれるが、言葉が聞こえても頭に届いてこない。

 鳥の羽が落ちるよりもゆっくりと降りてくる着陸船に、目が奪われっぱなしだ。


 こんなシロモノを食い詰めた海賊程度が使っているってのに、どうして得物は剣だ槍だの白兵戦武器なんだ?

 ニュートンがこの場にいたら、リンゴを握り潰して投げつけたくなる光景だ!

 

 着陸船の底がきしみ、地面すれすれに油圧シリンダーに支えられた三つの脚がのっそり展開する。

 ずしん、ずしん、と脚が接地して、シリンダーが仕事を思い出したように沈み込む。

 そして、船体の左舷側にある切れ目から盛大に蒸気と圧搾空気が漏れて搭乗ハッチが解放される。


 なんてアナクロな宇宙船だろう。

 ペンキが剥げて、錆の浮いた船体。

 親指くらいのデカいリベットで雑に固定された外板は、弾痕もあれば叩いて補修した痕もある。

 まるでエンジンが動いて走ればいいと、砂漠の国で酷使されるトラックだ。

 堅牢さだけが取柄の、無骨で泥臭くて華を必要としない機械。


 これで、オレは双つ月が浮かぶ宇宙に行く。

 今から、非日常に飛び込むんだ。


「ガンマ、乗るにゃ!」


「今行く!」


 一足飛びにハッチ兼用のタラップを踏んで船内に入ると、待ちかねたとばかりに船が浮上を開始した。

 まだハッチ閉まってないし、シートベルトどころか座ってもいないんですがね。

 電車の駆け込み乗車より雑な運用でいいのか? 


 それにだな、いくら殴り込みって言ってもオレ初めての宇宙だよ?

 もうちょっと雰囲気のある発進シーケンス? そういうサムシングあっても良くね?


「操船はララがやりますので、ガンマさんはこちらをお願いします」


 ローラに手を引かれて、四つある座席ではなく着陸船の後ろの方に連れて来られた。

 そこには、数だけはやたら多い細い配管と、金属板で作ったガチャガチャのカプセルみたいなものが据えられている。


 こちらって、どちら?


「この中に精霊石が封入されていますので、手を添えていてください」


 あ、はい。


「飛行中は手を離さないでくださいね! 墜落しますから、絶対ですよ!?」


 なにそれ。あの、もっと説明してもらえませんか。

 ああララさん、ここ騒音と振動すごくて何も聞こえません


「私はララの補助ですので! あちらに戻ります! お願いしますね!」


 マジかよ。説明やめてローラ行っちゃったよ。諦めんなよ。

 それよりね? なんでオレだけ窓のないマイクロバスの最後尾で荷物番ポジなの?

 いやね、わかってるよ?

 操船なんてできないし、なに補助すんのかも知らないよ。

 着陸船の燃料足りないから、オレがここにいるってのもわかってるよ。


 でもね? 操縦室っつーの? なんか前の方って窓あって外見えるじゃん。

 ここ窓ないし暗いしゴーゴーだしガタガタじゃん。

 わかってるんだよ?


 でもなあ、腑に落ちねえっつーかさあ、釈然としねえっつーかさあ。

 メルだって外見たいよな? 空飛んでるんだもん。


『え!? いま飛んでるの!? ガンちゃんあたし見てくる!』


 ええっ!? メルちゃん行っちゃうの!? オレを見捨てて!?

 ちょっ…いや、いいよ? 見ておいでよ。


 うわぁ…空が黒くなってきたねえ…もう大気圏の上層なんだろうなあ…

 上昇率とか速度すごいんだろうなあ…体感なーんもねえなあ…


 もしかして、帰りもこのポジなのかなあ…

 泣いちゃおうかなあ…


本作、10万文字でようやく宇宙です。

宇宙ですが、世界初の(人間の)宇宙飛行士であるユーリ・ガガーリンさんに敬意を表してロクに外を見せない方向で。


***ここから引用のご紹介***

クァール…A・E・ヴァン・ヴォークト氏「宇宙船ビーグル号の冒険」より

重力等化装置…エドモンド・ハミルトン氏「キャプテン・フューチャー」より


素晴らしい作品に敬意をこめて。

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