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キャプテン・ノーフューチャー! 工具精霊とDIYで星の海へ!  作者: やまざき
第一章 修理屋のガンマ
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殴り込みに行こう②

 宇宙海賊にこっちから殴り込みをかける。

 言葉で聞けば痛快で勇ましいが、実際は他に選択肢がない。

 オレたちは日常を守るために、非日常(殺し合い)に飛び込むってわけだ…腹括るしかねえってか。


「ところで、その海賊の着陸船ってやつは何人乗れるんだ?」


 飛び込んだ非日常(殺し合い)が前方への脱出となるか、積極的な自殺行為に終わるかは準備次第だ。


 そう、準備すげえ大事。ツーリングもデートも初体験も、準備が足りなきゃ後で困ることになる。

 いまオレに必要なもの。まずは情報、次に目標、最後に武器だ。


「そうだにゃあ…座席は四つだったにゃ。貨物分にも詰めれば十人は乗れるにゃあ」


 ちょっと待って。そこまで詳しくねえけどさ、こっちの宇宙ってそんなアバウトでいいの?

 軽のワンボックスに大人数でギュウ詰めに乗るのと同じレベルじゃねえか。

 乗るのはここの四人で…定員だから、まあ…いいか。


 それにほら、アレだよ。軌道上まで上がるんだよ?

 その着陸船ってのが、元の世界で研究中のSSTO(単段式宇宙機)みたいなモンだとしても、燃料いるじゃん。補給のアテあるの?


「軌道まで上がる分のエーテルはお前がいるにゃあ。問題にゃい」


 わーお。

 オレ、電池の次は燃料だってよ。

 てかババア、やっぱオレが精霊石みたいな身体だって知ってやがったな!? にょほほじゃねえよ。

 オレの血を晩酌みてぇに言うんじゃねえっての。まったく。


 まあ、着陸船についてはわかった。

 次は敵の人数と武装の程度について知りたい。


「連中の得物は一昨日と似たようなモンにゃろ。魔術師(スペルキャスター)がいる可能性は考えても仕方ないにゃあ。人数は…多くても十人以下にゃ」


「根拠は?」


「二つ名持ちの海賊は、陸に仕事を持ち込まないもんにゃ。食い詰めた海賊くずれは別だがにゃ。で、そういう連中は大きな船(ガレオーン)を持っても維持できんのにゃあ。せいぜいが小船(キャラベル)にゃ」


「その小船(キャラベル)の乗員は三十人前後だ、と。なるほどね」


 不安材料は尽きないが、オレが二日も寝ちまったからな。

 襲撃が失敗に終わったことを知った敵が増援を呼んだり、こっちの反撃を想定することだって考えられる。

 わざわざ着陸船を使うってことは、本船を降ろすことはコスト的に割に合わないか、船体の構造的に不可能なのか、どちらかだ。

 後者であれば一安心だが、前者だとブチ切れた海賊くずれが後先考えずにブッこんでくる可能性だってある。


「はあ…考えてもタカが知れてんな。敵の情報を丸裸にできるワケねえし、結局は出たとこ勝負かぁ?」


 ババアの話と状況からの推測だけで、全部わかりゃ苦労しねえか。

 天才軍師でも戦いの申し子でもねえからな。


「そういうことにゃ。まあ、勝てば済む話にゃ」


 勝利は万能の霊薬ってか。戦闘民族め。


「まあ、わかった。出発はいつだ? 準備くらいさせてくれよ」


「それについて…言い難い事ですが、すでに二日経っていますのでガンマさんの準備次第にしたいと考えています」


「オレ待ちだったわけか?」


「はい。着陸船を上げるためには大量のエーテルを必要としますので…」


 あーそりゃオレ(燃料)待ちになるね。そういや、ララの手当に使った分のエーテルって、どのくらいだったんだろう? 途中でガス欠とか笑えないぞ。


「それなんですが、ララとガンマさん、私の三人分の治癒をしたんですが、まるで減ってません。さすがというか、呆れるというか」


「その治癒の魔法って、普通だとどのくらい減るものなんだ? 基準がわからねえ」


「ええと、縫わなきゃいけないようなケガを治癒する場合に…そうですね、一の力が必要だとしましょうか。今回、私が行った治癒は…おおよそ、九十くらいです。これは治癒専門の魔術師が、三人がかりで失神するまで行うようなものなんです」


 それだけ使っても、減ったように見えないんスね。自分で魔法使えないのが残念だ。

 なんだこの中途半端なチートは。オレだってな、チーレム主人公になりてえんだよ!


「エーテルは心配いらないってことか。じゃあ、殴り込みの目的を整理しようか」


 情報はある程度聞けた。敵の人数と武装がわかるだけでも、かなり違う。

 気楽に回転寿司に行くか、お値段が時価の寿司屋に行くよりも違う。アレは別次元の度胸がいる。


 次は目的の整理だ。

 殴りこんでブッ殺してハッピーエンド! となるなら、世界は実に単純なもんだろう。

 その代わり、弱肉強食の世界だけど。

 自分の趣味と平和な日常を愛するオレとしては、警察があれば全面的に保護をお願いしたい所存。

 税金を収めた事もねえし、自警団以外の治安組織を見たことも聞いたこともねえがな。

 つまるところはDo It(テメエで) Yourself(やりやがれ)というわけだ。

 …ホームセンターのコーナー名だと思ってたのに、やたら冷たく感じるのはなぜだろう。


「目標は大きく二つ。ひとつ目は、エゲリア神殿の関与を示す証拠の確保。この有無で今後の対応が変わると思う。そんで、ふたつ目が賊の排除な」


「妥当だと思います。証拠があるかは祈るばかりですが」


「お祈りは本職にお任せするさ。賊が保身に気を使ってくれてると有難い」


 お茶を飲み干して、席を立った。最後の用意、武器の調達だ。


「そうですね…ガンマさん、どちらへ?」


「メルに武器作ってもらうからさ。その材料を取りに、ちょっと部屋まで」


 ババアの部屋を出て、きしむ階段を上りながら考える。

 あの賊はどこから来た? ローラたちがメルを探して、金星から地球にやってきたのは…何て言ってた? 半周期…だったか。

 素直に考えれば、地球の公転周期のことかね。それが半分ってことは半年だ。


 賊も半年前からメルを探していた? そんな馬鹿な。宝の地図があるような話じゃない。

 資金も組織の支えもない小集団に、半年間の捜索は不可能だ。


 ローラがオレたちを発見したという情報を知る者。それが金星の神殿にいる黒幕だ。

 だけど、情報を得てすぐに手を打てたのは、なぜだ?

 あらかじめ賊を雇って指示を与えておいた…見つかるかどうかもわからないのに?

 それなら、地球の付近にいた賊を雇った…海賊が自分の位置を誰に定期連絡するってんだ。


 あ、そうか。

 派遣だ。

  

 金に困って食い詰めてる海賊に、不定期だけど儲け話を紹介する派遣業者。

 黒幕から依頼を受けて、たまたま近所にいた登録者に話を回す。

 依頼者が必要な時に、必要な場所へ、使い捨ての日雇い襲撃者を手配する派遣屋。

 なお、保険はありません。

 

 当たりを引いた気分だ。

 オレが黒幕なら、そういう伝手があるなら間違いなく使う。ラクだもん。

 派遣という仕組みなんか、江戸時代からあるんだ。

 人間の社会があるなら、その仕組みは需要がある。

 需要があるなら、商売にする奴もいる。こっちに無いと思う方がおかしい。


 そうだ。初めて戦ったとき、オレを魔術師と勘違いした賊が「聞いてねえぞ」と言った。

 ローラたちの情報は誰かに聞いてて、オレの事を知らなきゃ出ないセリフだ。

 ニード・トゥ・ノウが徹底されてやがる。世知辛れぇ異世界だなオイ。


 ぐおお…これ派遣くせえ。考えるほど派遣くせえよ!?

 ローラさん、お祈りお願いします! どうか証拠がありますように!


「証拠を見つけるのは欲張りすぎかもなぁ…」


「さっきから難しい顔して、ムーとかウーとか言ってたけど…どしたの?」


「うーん、そうだな。いまメルは魚が食べたい、とする」


「いつものたとえ話だね? うん」


「だけど、雨が降ってて自分で港まで釣りに行くのは面倒だ。魚屋にも行きたくない」


「雨だもんね。行きたくないよ」


「そこに、お駄賃くれたら代わりに買ってきてあげるよ、という親切なパシリ君がいる」


「うれしい! パシリ君お願い!」


「メルはパシリ君にお金を渡す」


「うん。お買い物にはお金いるもんね。お駄賃も一緒に渡すかな?」


「お金をもらったパシリ君だけど、自分も雨に濡れたくない。だからパシリーヌちゃんにお駄賃を半分あげて、魚を買いに行ってもらう」


「えー、パシリ君が行くんじゃないの?」


「パシリーヌちゃんは雨に濡れちゃうけど、半分のお駄賃が欲しくて魚屋に行った」


「ちょっとパシリーヌちゃんかわいそう…」


「パシリーヌちゃんから魚を受け取ったパシリ君は、メルに魚を買ってきたと届ける」


「うーん、パシリ君ずるくない?」


「いまの話だとそうかもな。でも、一昨日の連中もパシリーヌちゃんなんだけど、そっちは可哀そうか?」


「え? あの人たち、パシリーヌちゃんなの!? かわいくないよ!? ううん、そうじゃない…じゃあ、ガンちゃん。パシリ君はどこにいるの?」


 メルの赤い瞳に理解の光が宿った。良い傾向だが、反面複雑な気分だ。

 人間はきれいなもんじゃない。場合によっては…十中八九、パシリ君を探しに行くはめになる。


「それを…これから探しに行くんだ」


「そっか…たいへんだね」


「すげえ面倒くせえけどな」


「そうだね。でも、あたしも手伝うから、やろう?」


「…まあ、やるしかねえもんな」


 どっかにいるパシリ君を見つけて、黒幕の狙いと正体を突き止めねえと日常に戻れねえ。

 まったく、本当に面倒くせえ話だ。できるならオレもパシリーヌちゃんを雇いたい。

 とはいえ伝手も金もない。やっぱり結論はDo It(テメエで) Yourself(やりやがれ)だ。


「ねえガンちゃん?」


「なんだ?」


「…ありがと。もっといろいろ教えてね?」


「あんまり期待すんなよ? オレぁ馬鹿だからな」


「知ってる。それと、エッチなのも知ってるよー?」


 ちょいとメルさん、何気にひどくない?

 メルはオレの顔の前に回り込んで、意味ありげにくすくす笑う。

 妙にませて、薄く色気さえ感じる笑顔だ。


「あのね、ガンちゃんって…おっぱい、気持ちいいの?」


 なん…だと…


「ローラちゃんがね、ふにふにって触るとガンちゃん寝てるのに「あぅっ」とか「くふっ」って」


 やめてやめてホントやめて。

 そんなこと言われて、何て返せばいいんだよ。

 オレがしたいのはピロートークで「可愛かったぜ…」と言う方であって、逆の立場じゃねえんだよ!

 ハードボイルドヒーローはそんな声出さないの! ダメなの!

 つーか、触られたことねえから! 記憶にないものはないから!


「ローラちゃんの次はあたしの番だから、楽しみなんだー♡」


 すんません。チーレム主人公だなんて調子乗ってました。

 ハードボイルドヒーローじゃなくてもいいです。

 オレなんて小市民で十分です。ホントすんません。


 ですから、どうかメルに乳首いじられて悶えるような事だけは許してください。

 【右手が恋人】は男の沽券に関わります。

 若くて敏感な身体が憎い…センシティブな青少年が、心の底から憎い…!


 あのエロ星人ども…メルに余計な知恵つけやがって。

 何が立場だエロ本マニアの痴女官長め。この件が済んだらゼッテー泣かす!


ルビ振りに中二心を刺激される今日この頃です。

あとスマホで読むときって、どのくらいの文字数がいい感じなんでしょね?

短い人は2-3000文字でバンバン投稿して、長い人はウワーっと長い。

通勤や通学の車内とか、ランチ中にサクっと楽しむなら短い方が良いのかな。

お話の感想や、文字数のご意見いただけたら嬉しいです。

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