3.2カ月前イオン
《2カ月前、イオン。充太が来てから約3週間。》
トイレを済ませて香苗と充太が待っているベンチへ向かう。「おまたせ」と後ろから声をかけると、振り向いた香苗は「おねぇ、ヤバイ」と深刻な顔をしていた。
「何?どうしたの?」
香苗と隣に座る充太の正面に回ると何となく察しがついた。充太が目を閉じて座っている。
「え、うそでしょ?」思わず口に出る。
「やばいよ!さっきねぇちゃんがトイレ行ってる間にスリープモード入って、今電源落ちた。」
「え、まじ?家出る前充電したばっかりじゃん!え?充太、じゅーたー?え、ちょっと再起動も出来ないじゃん!」
「まずいよね」と香苗が顔をしかめる。
首の後ろにある電源ボタンを押してみるがウンともスンともいわない。どうしようと言う顔の香苗と目が合う。イオンの通路の真ん中にあるこのベンチの前をたくさんの人が歩いて行く、休日ともあってすごい賑わいだ。 周りの人の多さとこの後の事を考えるとため息がでる。
「えぇ、、、」
ガラガラガラガラ!とアスファルトの上を車輪がものすごい音を立てる。
「あぁ、恥ずかしい!」
「もう、しょうがないよねぇちゃん!さっさと車乗ろう!」
人目を気にしてあれこれ考えたが、良い案が浮かぶことはなく、香苗が職員用ドアに段ボールを運ぶお姉さんから無理矢理貸してもらった台車に充太を乗せて全速力で駐車場の車に向かった。
振動でものすごく揺れている充太が少し心配になったが、それよりも休日の人の多さとその視線に恥ずかしくてたまらなかった。まぁ、台車に成人男性もどきを乗せていたらそりゃ目立つだろう。
急いで車の後部座席に充太を押し込めて、息切れしながら香苗と二人駐車場を出た。