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充太  作者: 斎藤ベコ
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1.南條さん家


ある日「高野さんももう結構慣れてきたし、南條さん家に配達行ってくる?」と店長に言われ、ニコニコ弁当で働き出してから初めて配達というものに出かけた。


「こんにちはー」

門の前で“南條”という表札の下にあるインターホンに呼びかける。住宅地より少し高台にある純和風の大きな家だ。インターホンから「はーい、ちょっとお待ち下さい」という声のあと、ひとりの中年女性が出てきて門を開けてくれた。


「あ、すみません。ニコニコ弁当です。」

精一杯の営業スマイルで笑う。

「あー!はいはい、すいませんねー、お忙しい時に」

「あ、いえ!ご注文ありがとうございます!」

「いえいえ、うふふ、私達ここのお弁当好きなんですよ。中華美味しくて、お嬢さんは、、、新人さん?」

「はい、4月から働いております。」


「あら、お弁当届いたの?」


家の奥から今度は杖をついたおばあさんが出てくる。

「こんにちは、ニコニコ弁当です。」

「あら、かわいいお嬢さん。今お金持ってきますからね。あぁ、そうねぇ折角だし、すみこさん!お嬢さんにお茶でも出してあげて。」

「あ、そうですね!どうぞあがってください。」

2人に家へ入るよう促される。


「え、あ、いや、わたしはまだ仕事中なので…」

「あら、いいじゃない。ちょっとだけ飲んでから帰ったらいいわよ。」

「そうですよ!さぁさぁ、チヨさんも中に入りましょう。代金はわたしが渡しておきますから、ほらあなたも、さぁさぁさぁさぁ!」

「あ、いや、え?あぁ。」


チヨさんと呼ばれていたおばあさんがこの家の奥様のようで、あれよあれよといううちに豪邸の中に誘われてしまい、あれよあれよといううちに純和風の家に似つかない高級そうなティーカップに入った紅茶とクッキーが目の前に置かれる。


配達前にリーさんと店長が「南條さん家、お茶出してくれるから断らないで飲んできていいよ。今まだ店空いてるしあんまり焦らないで帰って来ていいから。」

「ナンジョウサンキマエイイネ!」

と言ってくれていたので、遠慮なく紅茶を頂いた。


最初に玄関に出てきたすみこさんはお手伝いさんらしく、さっそく配達した弁当を開けてお茶と漬物を用意していた。


すみこさんの置いたお茶を一口飲んで、南條の奥様は

「ごめんなさいね、あったかいうちがいいから、さっそく頂いちゃうわね」

とかわいく笑ってリーさん特製の中華弁当を食べ始めた。

「どうぞどうぞ」と言ってる間にすみこさんも

「ごめんなさいねぇ、わたしもいただきます!」と食べ始める。

二人とも「やっぱりおいしいわねー」と喜んでくれてうれしくなる。リーさんの中華弁当は人気商品だ。



二人が食べている間、食べているところを見ているのも失礼かと思い、リビングに置かれているテレビに目を移す。お昼のニュースで、大阪の宝石店での窃盗犯について流れていた。犯人と出くわしたとされる宝石店の店員が一人殺害されていた。


「怖いわねー」と奥様。

「そうですねぇ、まだ捕まらないのねー」とすみこさん。

「あっそういえば」とすみこさんが思い出したように

「隣街も空き巣が増えてるって、今朝駐在さんに聞きましたよ。」と言った。

「あら、そうなの?怖いわね。」と奥様。

「嫌ですね。戸締り、気をつけて下さいね」と私が言うと、どこからか1匹の白い猫が奥様の所へすり寄ってきた。


「猫飼ってるんですね!かわいい。」

思わず口に出すと、奥様はうふふと笑ってすり寄ってきた猫を大事そうになでた。

「まだあと2匹いるんですよ。でも1匹は今、お出かけ中ですけど。」とすみこさん。

「ふふふ、どこいったのかしらねー。」

戻って来ないんですか?と聞くと、ここの家の猫はたまにふらっと何日か戻って来ない時があるらしい。

帰ってくるか、もう戻らないかは人では分からないのよと奥様は笑いながら話した。すみこさんがうらやましくなるくらい自由よねと笑った。



「犬なら番犬にもなるかもしれないけど、猫が3匹いても何にもならないわね」と奥様。

「ふふっ、そうかもしれないですね」

と私が笑うとすみこさんに

「お嬢さんのおうちは何かペット飼っているの?」と聞かれて、なんとなく充太の顔が浮かんだ。わたしもうらやましくなるくらい自由なロボットを知っている。


「ペット、というか、まぁ最近うちにも似たようなのがいますね」と答えておいた。


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