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充太  作者: 斎藤ベコ
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6.飲み会


成り行きで3人で飲みに行くことになり、シフトの都合上わたしと佐藤さんが先に退社した。夜バイトの風間君が私達と入れ替わりに入ってきて、佐藤さんが飲みに行くのと言うと、いいですね!俺も終わってから行ってもいいですか?となり、風間君も来ることになった。


「わたし達いつも行くとこがあるのよ、リーさんのお友達のところ」

お店の場所を聞いて、7時に再び集合することになった。佐藤さんから聞いたお店は商店街の中にある中華料理屋さんで、2回くらい食べに行ったことのある所だった。家からは歩いて15分くらいの所にあり、そこに向かうにはまだもう少し時間に余裕がある。

帰宅すると家には誰も居なくて、充太もまだ帰って来ていないみたいだった。



ガサゴソという音で目が覚めた。寝ていたらしく、慌ててスマホで時間を確認すると6時45分だった。

「あら、起きたの?」と台所から母の声が聞こえる。

「ごめん、今日ごはんいらないや」


ソファから飛び起きて慌てながら服を着替え、顔を洗った。佐藤さん達とだから化粧はしなくていいだろう。母のごはん食べ行くの?に職場の人と飲んで来る!と答えると、まぁいいわね〜とのん気な返事が返ってくる。慌ただしくカバンに荷物を入れていると充太が「ただいま」と帰ってきた。充太と入れ違いで玄関へ向かうと母が「あー!美咲!」と私を呼び止めた。


「なにぃー?」と返事をすると、

「今日木ノ下さん来る日だけどどうするの?」と母が玄関に顔を出した。

「あ、そっか、忘れてた。うーん、私いなくても、充太がいれば大丈夫だと思う。」


毎週金曜日、木ノ下さんは充太のメンテナンスとデータ回収にやってくる。先週は仕事で来られなかったのできっと今週は来るだろう。母を目の前に、数秒考えてみたがいい考えが浮かばないので、玄関からじゅーたー!と呼んで充太に木ノ下さんが今日来るけどよろしくね!と声をかけて外に出た。毎回木ノ下さんがメンテナンスに来る時は立ち会って欲しいと言われ立ち会っていたが、私はメンテナンス中見ているだけで特にすることがないのだ。いなくても大丈夫だろう。


慌てて家をでて、商店街へ入る道を走りながらスマホで時間を確認すると6時58分、遅刻だ急がなければ。


店に着くと佐藤さんとリーさんはもう着いていた。

席につくなり餃子やら炒めものやらが次々と運ばれてくる。私の生ビールが来てからお疲れ様でした!と3人で乾杯した。寝起きと家からのダッシュでカラカラの体にビールが沁みた。勢いよくグビッといく私にリーさんがヤルナー!ミサキ!と負けずにビールを煽った。料理も美味しくて、佐藤さんの若いんだからたくさん食べなさいという言葉に甘えて食べて飲んだら、あっという間に出来上がってしまって風間君が来た時にはもうお腹が張ちきれそうだった。


リーさんも佐藤さんも酔っ払っていて、上機嫌だ。飲みに行こうと誘われた時から、なんとなくそんな気はしていたが2人ともとてもお酒が強い。もうずっと飲んでいるが全く変わらない。さっき来た風間君はビール一杯目で真っ赤になりながら、今チャーハンをかき込んでいる。これはこれでかわいいなと笑ってしまう。


「あー、そうだ。昼間の続きなんですけど、3連休子連れの友達とあと、前の職場の人と飲み会したって言ったじゃないですか。」

なんとなく、話たくなってリーさんと佐藤さんを見る。

「なんか、ホントは全然面白くなくて、ごはんの味もわからないし、お酒も飲んでも酔えなくて、、、」

本当はこうで、酔ったせいか誰かにつまらなかったと言いたくなった。前にいるリーさんが佐藤さんと目配せしたのがわかる。


「なんか、久しぶりに会ったのにどっちの人達といてもつまんないというか、しっくりこない?という感想しかなくて、、、こんなだったな?って思っちゃって、なんなら今日の飲み会が一番楽しいです。」

「そんなもんよー!」

と私が言い終わる前に佐藤さんが、深刻な顔して何かと思ったー!と笑っている。


「友達の子供とごはん食べるのなんてそんなに楽しくないわよー!だって人の子だもん、そんなにかわいくもないし、そりゃ、つまんないわよ!」

「ナンダソレ、ワタシモチュウゴクのトモダチモウゼッコウシタヨ!ユルサナイネ!」

「あら、リーさんそうなの?」

「俺は中学の時の友達まだ仲良いっスけどね」と風間君。

「アイツワタシノツウチョウトテレビトロウトシタカラネ!!ユルサナイヨ!!」

「えー!!あはははっ」と佐藤さん。

「やべー、中国人すげー!」と風間くん。


ほら、そんなの普通だからと目の前に紹興酒が置かれる。ほら飲みな!というように置かれた小さなグラスを前に「いただきます!」と小さく気合いを入れて一気に飲み干した。周りからおぉー!と声援が湧く中、のどから胃にかけて熱い液体が流れたのがわかった。

すぐに体があつくなって頭がぼーっとした。なんだかすべてがおもしろくて、笑えた。




お会計をして店の前で解散となる。路肩に止まってある車からリーさんの旦那さんが出てきてどうもーと挨拶をして、ベロベロのリーさんを見て呆れたようだった。

「よし、帰りましょうか」と支払いを済ませた佐藤さんが店から出てくる。

「オォ、ミサキモオムカエキタナー!!」


リーさんの大声にん?と振り返ると充太が立っていた。

「迎えに来ました美咲ちゃん。」


といつもの淡々とした声で充太が私に傘を差し出す。

「さ、これで美咲ちゃんも安心だし、帰ろう!」




解散して家までの道、充太と手をつないで歩いた。

「あ、あじさいです。…カタツムリ…」

と帰り道、充太があじさいを見つけてはカタツムリを探そうとするので、いいから!とその都度手を引っ張って歩いた。


「わたしからすると美咲ちゃんの生活もなかなか面白いと思うよ、ロボットと暮らしてる人なんていないもの」

ふと、先程帰り際での佐藤さんの言葉が蘇る。


わたしの隣を規則正しく淡々と歩く充太。つないだ手がひんやりとしていて、人の様で人ではない。

そうかもしれない、佐藤さんの言う通りかもしれない。

「美咲ちゃん、今日は9話見ますか?」

「えー、今日はお休み。…あ、木ノ下さんは?メンテナンス終わった?」

充太は前を向いて淡々と進む。9話鑑賞をお休みと言ったら表情は変わらないが残念そうだ。


「木ノ下さんはお家にいます。少し機嫌が良くないです」

「え、うそ、えぇー!」


「ただいまです」と充太が玄関を開ける。一緒に入って「ただいまです」とわたしも言った。


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