3.2日目
土曜日の夜というのはこんなにも人がたくさんいるものかと、久しぶりの駅前の雰囲気に萎縮してしまう。
賑やかで、これから夜を楽しむ人達で溢れている。前の職場の近藤さん達は会社から直接お店に行くらしい。
今日のお店は行ったことがないから、駅の壁側に移動してメッセージで送られてきたお店を地図アプリで探す。駅前で突っ立ってる私の前をたくさんの人が通りすぎていく。
連休2日目、私の一日は朝シャンから始まり、午前中は充太の散歩に着いて行き、雨が降り始めたので充太を引きずって家に帰り、午後からはボーっと何もせず過ごし(その間充太はテレビを見たり、おばあちゃん家に行ったりしていた)気がつくと5時で、慌てて服を着替えてメイクをして最寄り駅まで走った。
お店までは地図アプリのおかげで無事に着き、お店の中に入ると私が一番最初だった。席について数分で近藤さん達も到着し、近藤さんと村田さんと斎藤さん3人が部屋に入ってくる。
「あ、美咲ちゃん!久しぶりー!」
「美咲さんお久しぶりですー!」
「お久しぶりです。皆さん変わってないですね!」
などと、挨拶も早々に「今日飲み放題にしたからいっぱい飲んでね!」と急かされながらビールを頼んだ。
料理は単品で、2時間の飲み放題。すぐに飲み物が到着して『かんぱーい!!』と元気良く始まる。
それぞれの生活での変化や私の現在の状況など、質問したり質問されたり、近藤さんと村田さんは30代、私は29、斎藤さんは24で年代も少しずつ違うのでそれぞれの話を聞くのも楽しかった。料理を選んだり、世間話をしていると不意に近藤さんが
「美咲ちゃんは今バイトだっけ?就活はどう?」
内心うわっ、やっぱり来たかと思ったが、私がゲストみたいなこの場でこの質問がない訳はないと思っていた。
「あー、なかなか難しくて、とりあえずまだお弁当屋さんです。」
就活なんて最近は全くしてないが、精一杯頑張ってますぅ、という顔をしてかわす。
「彼氏は?できた?」
この質問もやっぱり、という感じだった。これも軽くかわして、その後はそんなに質問されることもなく答えにくいこともなかった。
私が在職中に新人で入って来た斎藤さんとはあまり話をした事はなかったが、若者らしくて話やすく面白かった。近藤さん達とのの掛け合いも面白い。だんだんお酒も入ってきて、近藤さん達は会社の同僚や上司の話になった。
私の知っている人の話もあるが、だんだんと知らない話が多くなってきた。村田さんが気を利かして所々説明してくれ、何となく愛想笑いで合わせるが、私が発言する所もないためグラスだけがどんどん進んだ。途中トイレに入って「ふぅ」とため息が出た時、あぁ私はもう違うところの人間になったんだなーと改めて思った。
11時になり解散となる。揃って駅まで歩き、私と近藤さんが電車に乗り、斎藤さんと村田さんが迎えが来るため駅に残り別れた。
「斎藤ちゃんケンカしたとか言ってたのにちゃんと迎え来てくれるじゃんね、なんだかんだ仲良しなのよね」
帰りの電車の中で近藤さんがふふっと笑った。
「そうですね」とつられて笑う。
斎藤さんは飲み会の席で先週から彼氏とケンカをしたままだと愚痴っていたのに、お迎えには来てくれたようだ。駅で別れたとき、若い男の子が斎藤さんを迎えに来ていた。
ガタンガタン
近藤さんとわたしは自然と無言なり、ボーッと眺めた窓の外は繁華街のネオンを超えて、真っ暗な住宅街を進む。繁華街を歩いて駅へ向かう時は、夜がまだまだ続くような気がしていたが、明かりがポツポツと灯る住宅地を見ているともう眠る時間なんだなと思った。近藤さんはあと3駅で降りる、私はもう少し後だ。
「近藤さんは、お迎え来るんですか?」
「ん?あぁ、うん。旦那が来てると思う」
「そうですか、よかった」
「うん、ありがとね。美咲ちゃんも気をつけて帰ってね。」
近藤さんを見送り、私も最寄り駅に着く。街灯が照らす道が夜というだけで違う道みたいに見えた。あんなにお酒を飲んだはずなのにもう頭が冴えてしまっていた。
ふと、駅で村田さんと斎藤さんと別れた風景が目に浮かび、前日にミナと別れた風景と重なる。続けて、昨日のランチ会や今日の飲み会を思い出す。みんなそれぞれ家族や恋人がいて、私より幸せそうな気がした。
他人と比べても仕方がないことはもう何十回と私は私に言い聞かせて来たが、いまだに言うことをきけない。
夜の道を歩いていると、なんだか私だけ世界に取り残された気になった。
歩いていると、湿度が高いのが肌で分かった。自宅の前まで来るとまだ明かりがついているのがわかる。「ただいま」と声をかけて鍵を閉める。電気がついているのは玄関だけで、リビングに入ると寝ていた充太が私の帰宅を察知して起きた。リビングの電気がついて
「おかえりなさい、美咲ちゃん」と充太。
「ただいま、寝てていいよ」とわたし。
充太はロボットなので正確には寝ない。けれど人間の生活を送る彼は夜になると、リビングに布団を敷いて横になりながらスリープモードで充電している。寝たふりをしているのだ。だから夜中にだれか帰って来ると物音に反応してスリープモードが解ける。
冷蔵庫から麦茶を出して一気に飲み干す。寝てていいよと言ったが充太は布団の上で上半身を起こしたままこちらを見ていた。コップを洗い、近寄って充太の目を見て「おやすみ」と言う。これは充太のスリープモードに入る合図だ。
「おやすみなさい、美咲ちゃん」
また横になった充太が「電気を消しますか?」と聞いてくる。「消して」と言うと「はい」と返ってくる。
ベッドに入るころには1時を回っていて、わたしは2日目もまたお風呂に入らないで寝てしまった。