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【四十二】自殺未遂と救いの風

 理沙は、倉庫の床にうずくまり涙を流す。


 類たち十三人の訃報のLINEを受信してから、どのくらいの時間が経過しただろう……。涙が止まらない。ずっと泣いている。このまま延々に泣き続けても、涙が枯れる日はやってこないような気がした。


 人間の感情は豊かだ。だからこそ、ときにその豊かさが残酷さを生む。悲しみの極致に達してしまえば何も感じないんだ、そう思えば思うほどに涙が溢れてくるのはどうしてだろう。強がっても心は正直だ。感情の雫が頬を濡らしていく。


 神様―――


 もしもあなたがいるなら、もう一度、類に逢わせてください―――


 それができないなら、どうかすべての記憶を奪い去ってください―――


 そうしたら、空っぽの笑顔で過ごせる日がやってくるから―――


 自分ひとりが映る倉庫の鏡の前で泣き続ける理沙の後方には、無造作に置かれた段ボール箱があった。その段ボール箱の上には、カッターナイフが置きっぱなしにされていた。


 うずくまっていた理沙は背を起こし、上半身を捻って、後方に体を向け、カッターナイフに手を伸ばした。そして、鋭利な刃先を左手首に押し当て、自分に向かって力いっぱい引いた。


 いままで感じたことのない激痛を感じた瞬間、鏡に鮮血が飛散した。衰弱していた理沙は、痛みのあまり意識が朦朧として気絶した。


 そのとき―――


 けたたましい音を立てて窓硝子が割れた。床に野球ボールが転がる。室内に強風が流れ込み、カーテンが揺れ動いた。


 そして、その強風は優しい風へと変わり、理沙の体を通過した。


 気絶している理沙は、夢の中で類の温もりを感じていた。無意識に流れた涙が床に滴り落ちる。


 そのあとすぐに、理沙ひとりが横たわる倉庫に、グラウンドで汗を流す男子生徒の声が響いた。


 「なんだよ、いまの強風は!」


 「これが試合だったら奇跡だな。強風が味方してホームラン!」


 「冗談言ってる場合かよ。窓硝子を割っちゃったんだぞ」


 男子生徒はボールを拾うために倉庫に向かった―――



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