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008 魔王殺し


 VAMとファンタジアは同じ世界ということになっている。

 100年前、世界は一つだった。人間と魔族が激しい戦いをしていた時代。

 創世戦争そうせいせんそう

 しかし魔王がプレイヤーに倒されたのち、神により世界は99個に分裂した。


 現実世界では、ファンタジアからVAMに切り替わった時間は約一年だが、ゲームの中では100年の時間が経っていた。


「魔王殺しはプレイヤーの間でも、誰かは分かってない。プレイヤーに聞いて回っても、探し出すのは難しいと思う」

「……そうですか」


 シトリーは残念そうに肩を落とした。


「話はそれだけ?」

「トウヤさんは、創世戦争を戦いましたか?」

「……トウヤ()戦ってない」


 悠斗は嘘をついていない。だが本当のことも語らない。

 前作ファンタジアを悠斗はプレイしていた。

 だがそれはトウヤではなく、別のアカウントでの話。

 そして、そのアカウントで魔王を殺した。

 魔王殺しとは実質、悠斗のことだ。


 シトリーが探している魔王殺しは、目の前にいると言ってもいい。

 今は違う姿をしているが、操っている中の人物は同じ。

 しかし、悠斗は自分が魔王殺しだと、決して正体を明かさない


 世間的に魔王殺しの評判は最悪だ。

 名乗ることのメリットよりもデメリットの方が圧倒的に大きい。

 もし魔王殺しだとバレたら、間違いなくトラブルに巻き込まれる。

 そういう理由もあって、悠斗は新しいアカウントを作った。


 ファンタジアからのプレイヤーは〝(Fantasia)( Player)〟と呼ばれ、VAMからのプレイヤーは〝(Arcadia)( Player)〟と呼ばれる。

 FPの中に、古参アピールをする人たちがいるのでFPが嫌われる傾向がある。

 そのためFPを隠すプレイヤーは多い。


「……そうですか。なら創世戦争を戦ったプレイヤーをご存知ですか?」

「最近始めたばかりだから。悪いけど、そういった知り合いを紹介はできない」

「分かりました。ありがとうございます」


 話はおしまいとばかりにシトリーは頭を下げた。

 だが悠斗はシトリーのことが心配になり放っては置けない、と思った。


「……シトリーは、これからどうするの? この草原世界の人間じゃないよね?」

「はい、別の世界から来ました」


「この辺りは魔物がいるから危ない。それに魔王殺しを探す以前に、プレイヤーに出会うのも難しい。

 それなら第2世界のどこかの街で、探した方が良いと思う」


「……第2世界ですか」


 シトリーは何かを考えている。

 第2世界には行きたくないといった雰囲気を感じた。


「シトリーは第2世界から、この世界に来たんだよね?」

「……えーと、それは、そのー。なんと言いますか」


 シトリーの目が泳ぎ、言いよどむ。

 おそらく親に内緒で転移してきたので、あまり身元を詮索されたくないのだろう。


「まあ、いいや。それより元の世界に戻るためのアイテム。虹の欠片は持ってるよね?」

「…………」


 キョトンとするシトリー。

 虹の欠片は一度、使用すると砕けて使えなくなる。

 なので、行きと帰りの二個を持っていないと、元の世界に戻れなくなってしまう。


「え? もしかして虹の欠片の予備を持ってない?」

「……にじのかけら? それはなんですか?」

「…………」


 悠斗は言葉を失う。

 虹の欠片を知らないとなると、おそらく予備も持っていない。

 後先考えずに、この世界に転移してきたのだ。


「虹の欠片はシトリーがこの世界に来るのに使った魔法道具だよ。それが無いと君は元の世界に戻れない」

「……そうなんですか? それは困りましたね」


 言葉からは困った感じが一切しない。

 自分の置かれた立場が分かってない。

 もし悠斗と出会っていなければ、シトリーは永遠に草原世界に取り残されることになっていた。


「でも、大丈夫。俺が転移できるから、君を元の世界に戻してあげるよ」

「……ありがとうございます。よろしくお願いします」


 少し考えた後、シトリーはぺこりと頭を下げた。


「転移は今すぐじゃなくて、三時間後でもいいかな?」

「ええ、かまいません。何か用事があるんですか?」


「これから午後の授業がある。

 またトウヤの魂が抜けた状態になるから、しばらくの間、話しかけられても反応できない」


「……そうですか」


「そろそろ俺は行くけど。この辺りには魔物がいるから気をつけて。

 もし近くに魔物が来たら、トウヤの後ろに。そうすれば勝手に倒すと思うから」


「わかりました。そうします」

「それじゃ。三時間後にまた」


 そう言って悠斗は話を終えた。


「…………」


 シトリーは動かなくなったトウヤを見つめた後。

 目の前で手を左右に振ってみたり。

 猫だましのように手を叩いてみたり。

 トウヤの頬を指でつついてみたり。

 頭を撫でてみたり。体中の匂いを嗅いでみたり。

 べろべろばあ、と変顔をしてみたりしていた。

 だが、トウヤが一切反応を見せないので、再び草原に寝転んだ。


 一連のシトリーの様子を、悠斗はカメラで見ていた。

 なんだか新しい妹が出来たような気がして、微笑ましくなった。


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