一章‐2 負けイベント
やばい、泣きそう・・・。
今俺の前にいるのは百人中百人がこれはドラゴンですとわかるくらい、それはもう立派なドラゴンさんがそこにはいました。
「な、なぁ、神様・・・この状況みてるんだろ? た、助けて・・・」
「はぁ?常に雅ちゃんを見てるわけないだろ? これでも申請書書きながら話してるんだから」
なんて奴だ、この神様、俺がこんな状況だというのに転生の申請書をのんきに書いているというのだ。
そんなことよりこのドラゴンは明らかに俺を捕食対象としてみているのは明白・・・・・・。
今の俺は文字通り丸腰、情けないことに泣きそうなうえに、おしっこも漏らしそうだ。
じゃあ、今の俺にできることはただ一つ・・・・・・。
「ッッッーーーーー!!!!!!!!」
無言の全力疾走!
下手に叫び声なんて上げたらその瞬間襲われる☆
そう音を出すからいけないのだ。
ほーら、追っかけてくる様子もないし、このまま遠くに行けば関心なくしてくれるだろう
後ろを振り返ってみる。
ドラゴンはゲームとかでよく見る炎を吐くモーションで俺の方向を向いていた!
「あ! これリオ〇ウスが炎吐くときと同じモーションだ!かっくいい! なんて言ってられるかああああああああああああああ!!!!!!」
ドラゴンさんはそのままのモーションで今にも吐き出しそうな炎or火の玉かを口から漏らしながら準備をしている。
このまま逃げ続けても奴の餌食になって焦げ肉なってしまうだけだ・・・。それよりドラゴンさんて捕食するときは生肉じゃないんですか?ウェルダン派なのですか?
俺は動きをいったん止めて、ドラゴンと向き合う。
口から出てくる炎or火の玉をタイミングを合わせて避ける体制を整える。
スピードもわからないのに避けれるかはわからない。だが距離はできた・・・さぁいつでも来い!
俺が身構えるとドラゴンは未だにエネルギーを溜めに溜めているのか中々放出しない。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「いや、時間かかりすぎだろうが!」
ドラゴン相手に突っ込みを入れてしまった。
というより時間がかかるならそれはそれでいいのだが、その時間にもっと遠くに逃げられたはずだ。
せっかく覚悟を決めて身構えたのになんてことだ。
だがその刹那ドラゴンは口を開くと上を向いてどろどろの粘液を吐き出した。
「いや、俺の方じゃねえのかよ!なんでこっち向けて準備してた!?威嚇射撃か!?」
それよりもドラゴンが吐き出したものが炎でも、火の玉でもなかったことが若干ショックだった。
なんかヴィジュアルもかっこ悪い。
俺がそんなことを思っていると、ドラゴンが上に向かって放出したどろどろの粘液が俺の頭上に降ってきた。
「わぁ、くっさーい」
別に熱くもなければ、物質を溶かしたりするものではなかった。
ただ、本当に臭い。
どんな腸内環境をしているのだろうか。
もうこのドラゴンへの感情が恐怖ではなく嫌な奴へシフトチェンジしそうだ。
とにかく、未だあのドラゴンの脅威は未知数。この粘液の意味は分からないがとにかく逃げれるところまで逃げよう。
そう思い足を動かそうとすると、動かない・・・。
「あれ?」
それどころか、全身がピクリとも動かない。
その理由はすぐに判明した。
ドラゴンが吐き出した粘液・・・。これが固まってしまい完全に体の自由が利かなくなっていた。
「これもう無理じゃね?」
何とか体をひねったり、ジャンプしたりして動かそうとするのだがどうやっても無駄なことがわかると再び、恐怖の感情が押し寄せてくる。
あのドラゴンは逃げた俺を見て、確実に仕留めるためにこの粘液を吐き出したのだ。それも俺が前ばかり見ていたこと、ドラゴンにしか集中がいってないこと・・・。奴はそこまで読んであの粘液を上に放出したのだろう。
完全に終わりだ。
ドラゴンも獲物が完全に動けないとわかると俺に向かって歩み始めてくる。
その歩みは堂々とし、この地上の覇者を思わせるような歩み。
一歩、また一歩進むたびに俺の命の終わりを告げる。
もう、無理だ。もし今動ける状態でもぶるぶると震え子犬みたいになっているだろう。
そして遂に、ドラゴンは歩みを止めた。
目の前の奴はどこか勝ち誇ったような顔をしていた。
「やっぱ・・・生肉だよなぁ・・・ドラゴンだもんなぁ・・・焼く訳ないよなぁ」
今から自分が食されるとわかると無駄口が止まらない。
何か言葉を発してないと発狂しそうになる。
するとこんな状況下に空気の読めない神様が話しかけてきた。
「よぉし、雅ちゃん! 書類できたよ! じゃあ最後の手続きがあるから付き合ってね」
「いや、神様、悪いんだけど俺もう死ぬよ?」
「? 何言ってるのかよくわかんないけど続けるわ」
「いや、あんた鬼か。今の現状そろそろ見てくれよ!」
「誰が鬼よ!失礼しちゃうわね・・・・あら、ドラゴンじゃない」
「あら、ドラゴンじゃない・・・じゃねーよ! もう死ぬよ! また神様のところに逆戻りだよ!」
「えぇ・・・それは困る。また書類書き直さないといけないじゃないか」
「じゃあ、この状況何とかしてくれよ!」
「だから言ってるじゃない、最後の手続きあるから付き合いなさいって。」
「なんでもいいから早くしてくれ!」
ドラゴンは今にもかぶりつこうとゆっくりとした動作で俺に向かってきている。
そんな状況下でものんびりと神様は続ける。
「じゃあ、異世界転生特典で願いを一つ叶えてあげるわね、ただし、あたしのさじ加減で無理な願い。この異世界のパワーバランスが覆るような願いは無理だからね」
「わかったから! すぐ言うからよく聞けよ! 俺の今の状況打破してくれ!」
「うーん、無理」
「な、なんでだよ!?」
「ごめんね、雅ちゃん。その世界の干渉はできないの・・・本来ならこのお願い特典も転生する前に決めておくことだから・・・かなり制限されるの♡」
「はああああああああああ!?!?!?! じゃあどうすればいいんだよ!?」
もうだめだ! 俺の頭がドラゴンの口の中にインサートされた! まだ噛むな!まだ噛むな!
「だからその状況だったら・・・身体能力アップさせるとか?」
俺の体が完全にドラゴンの口の中に入る・・・・・・!
こうなったら、もう色々と間に合わない・・・!
死ぬならせめて・・・!
「神様あああああああああああああ!!!!! 俺の体の痛覚を完全に無くしてくれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」
「御意♡」
こうしてそのまま俺はドラゴン思いっきりかみ砕かれた。