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本と魔法の冒険譚(アドベンチュア)  作者: 暁紫
chap.1『異能力者の魔術戦争』
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【教会】

…やはり遠い。墓地でさえ20分はかかったというのに、家から更に逆方向、間に合うわけがない。


私は、気晴らしに走りながら一つ、レイシャに質問する。


「はっ…はっ……なあレイシャ…」


「…なんです、走ってる時に喋ると酸素が減って…」


「どうして最初、私に名前を偽ったんだ?…確か、レイシャ・アハトワと」


「そんなことですか……ただルパラディ家が異端だったからです。」


「はあ…ぜえ…ぜえ……い、異端?魔術を使えるからか?」


「はい、時に私達、異端の者を殺そうとする輩もいるので、常に苗字は偽っているのです…」


…そうか、大変だったんだな。

魔術を使えると、それを信じてもらえないという悲劇を乗り越えて尚、明日にでも殺されるかも知れない恐怖が毎秒待っていると。


それにしても、なんでコイツ息切れしないんだ?…私が体力ないだけなのもあるが…。


「そろそろ…限界……。」


本音が漏れた……が、良い。

ここらで諦めどきだ、倒れておくと…しよ…うって、アレ?体が軽いぞ?


「レイシャ!?」


「はい、どうせ途中で諦めるだろうと思い魔術を使用し、体力を一時的に増加しました。」


「…あぁそうだな、そういや魔術師だったな!」


体力が尽きない感覚は心地よかった。

それに少し走りが速くなっている気もした。お陰で、教会にはすぐに辿り着いたが、ここは人通りも少なく、半分森と言うのが正しいような場所だった。


「ここが、教会だと?」


「はい、そうです。何年も手入れされていないので門や窓も草木で埋め尽くされていますが、一定の信者に使用されてはいるようですね。」


「ほーん、ばっかばかしいな。」


私はもう神なんて信じないとも。

嫌な思い出しかないから、な。


「入りますよ。」


レイシャが勢いよく外門を開く。


「うわっ…本当に草木で覆われてる…。教会の中はどうなってるんだ?」


「さあ。中に入ることはないので。」


そういえばレイシャの能力は体温感知だ。何かわかることがあるのではないだろうか?…まぁコイツは自分から話すことはあまりないから、聞くしかないのだが。


「あぁ、そういえば教会の中に人の気配はあるか?能力、使えるんだろ」


「使えますが…2人の気配しかありませんね、体温だけで言えば。」


「グーテンベルクの2人か。」


「そこまでは…」


「とりあえず、中に入ろうか。」


扉をゆっくり開ける。

ギィ、と音を立てる扉は、既に何年も手入れされていない故だろうか、ボロボロで苔なども生えている。


扉を開ききるが、中は暗く何も見えない。かろうじて奥の方にロウソクの火が見えるが、電気などは付いていない。レイシャは電気をつけるとーー。


「遅かったな。ルパラディ家。」


そこにいたのは、ミゾレとーー。


「貴方……ラードルフさんは、どういう状態なんですか。」


「ラードルフ・グーテンベルクは死んだ。」


ラードルフは、その腹に紫炎の剣を突き刺されたまま倒れている。だがその手には、未だ強く木の大剣が握られている。


「…そうですか。それは残念です。」


「そして、今からお前達もこうなる。」


ミゾレは紫炎の剣をラードルフの腹から引き抜く。


…そういえば、もう一人グーテンベルクの青年がいた筈だ。アイツはどうしたんだ?


「黒咲ミゾレ。もう一つ質問しますが、クランディアは何処へ?」


「もう一人の人間か。…さあな、オレは答えんよ。」


「…ならば、貴方を殺すだけです。」


無謀過ぎる、勝てる筈がない。

腹を、まるで食べ物の様に簡単に、そして残酷に刺されたあの巨体のラードルフの死体を見て、怖気付かないわけがない。そうだ、怖いんだ、私は。内臓は見えていないが、やはり遺跡での出来事がフラッシュバックする。腹が裂けている者、頭が砕けているもの。それは全て目の前の男が一人で行ったことなのだ。


そして死、それは明らかな宣告があると恐怖だけではなく悲しみや絶望が生まれるものだ。そしてそれは今だった。

機兵との戦闘でラードルフの戦闘力は見た。剣の一振りで大量のロボット兵を全て真っ二つに切り分ける技量。そのラードルフでさえ敵わなかったのならーー。


「レイシャ!逃げるぞ…!」


「しかし、クランディアが…」


ハハッ……全く、コイツら仲が良いのか悪いのかわからんな…。ここで死んで、良いわけがないだろう。私はこの時代に来た理由を、根源を全て明らかにして帰らなければならないのだから。


ダメだな、思考が停止している。…いや正確には、逃げろという命令だけが脳から送られてくる。そんなぼーっとした状態でもわかったことがあった。


「……雷の、痕がある、。」


クランディアの天変地異の炎による能力は、見た感じ雷の操作だ。つまり、この一点に集中して焼け焦げた痕は間違いなくクランディアのものだ。


「レイシャ、急げっ…」


遺跡の時の様に、私はレイシャの腕を引っ張って行く。走る


「逃げたところで無駄だ。例え逃げ切れてもオレは貴様らを殺すのだから」


奴は追ってこない。これなら…逃げられそうだ……。


そう安心した途端に瞼が重くなる。

意識が遠ざかり視界はブラックアウトした。

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