【墓地】
「墓地は何処だ…?」
「もうすぐですよ、フルール。」
かなり歩いた。そろそろ足が痛くなってくる。私のいた2010年なら車ですぐなんだがなぁ…。
「ほら、すぐそこに。」
レイシャは目の前に見えている大量の墓に指を指す。
「あー、あれか。不気味だな。」
「まだ少し暗いですからね。とはいえ朝日は見えています。ほら、あの月もきっと暁月になる。」
「人が来る前に探索を終わらせてしまうとしようか。」
墓地へ足を踏み入れる。
暗く、淀んだ空気を感じたがそれは恐らく雰囲気の問題だ。
「名前、なんだったか?ミゾレの…」
「黒咲ミゾレです。一応親族の墓はここにあるはずなので探しましょう。もしかすると、そこに魔法陣などがあるかもしれません。」
「じゃあ私は右へ行こう。レイシャは左を頼んでいいか。」
「…いえ、一緒に行動しましょう。何があるかわかりませんので。安全が確認されれば二手に分かれます。」
そうして、二人で黒咲の文字を探し始めた。
エディ…クライ…マイト…サディ…ライツ…アレク…。
東洋の名前は一切見つからない。
これではラチがあかないな。
何より面倒だ。
ん…?あれは、なんだ。
「おいレイシャ、あそこに何か見えないか?」
「あの影ですか。…あー、あれはもしかすると機兵かも知れませんね。」
「お、おい!?それはマズイんじゃないのか…?」
「えぇ、危険です。例え炎の力で全体的なステータスが上がっているとはいえ、相手は鉄の塊。運が悪いと殺されておしまいです。」
「帰ろう…?」
「それは出来ません。探索を続行します。出来るだけ足音を立てないようお願いします。」
バカな……見つかれば殺されるようなもの、その中で墓を探すだ…?
「チッ……炎の力はどうやって使うんだ?昨日瞬間移動した時は無意識だったからな。」
「貴女の場合は恐らく炎を纏った後に行きたい場所を想像すれば…。」
「そもそも炎の出し方がわからねーって……おい、あれ。」
見つけた、黒咲の文字だ。炎の影響か、動体視力だけではなく、普通に視力も上がっているのか数十メートル先の文字までハッキリとわかった。
「本当ですね。しかし、あそこは騎兵がうろついています。」
「なるほど、初めからその場所を守護してたってことか…。つまりあそこにワープしてきた可能性は大きいか。」
「行きますか?」
「いや……行きたくはないが…どうしようか。」
行けば死ぬのならば、行かない方が良いのだろうか?兎も角、この視力を以ってこの位置からでも魔法陣を探そう。
「魔法陣は何処だ………無い、か…?」
「はい、私も一通り見ましたが、その様なものは見当たりませんね。」
つまりここにワープしてきたわけではない…?されど機兵で墓を守っているのは単純なイタズラ防止か…それとも。
「それとも……レイシャ。」
「なんです?」
「最悪のパターンを思いついてしまった。」
「最悪のパターンですか。」
それは恐らく…いや、間違いない。
仮に墓を単純に守ろうとしていたわけではないと仮定するのならば…!
「あの機兵は、囮だ。教会に本体がいるんじゃないのか。」
「なるほど、確かにその可能性はありますね。」
「グーテンベルクの二人でミゾレに敵うのか?」
「わざわざ封印という手段を取った意味を考えて頂きたい。」
は?つまり、勝てないと。この女はそう言っているのか?…バカな。いや、バカか、コイツは。
「教会に走ろう…」
「そうですね。では行きましょう。」
墓地から出ると、教会に向かって走り出した。もしも手遅れだったならば、既に教会は2人分の血で真紅に染まっている筈だ。…違う。もしも間に合っても勝てる見込みなんてないのだろう。それでも2人で挑むよりはマシだ。少なくとも逃げる策くらいは思いつくかも知れない。
兎角、急がねば。