【ルパラディ家】
外。そこはまるでフランスのような軽快な街で、ロシアのように寒くはなく、丁度良い風が吹く。
「ここが、私の家です。」
レイシャは古い木の家の扉を開ける。
レイシャの入れ、というジェスチャーを読み取り私は家へ入る。
「何もないですが、休んで行ってください。…私も、聞きたいことは沢山あります。」
「そうか。…だが、まずは此方の質問だ。」
テーブルとセットになった適当な椅子に座るとレイシャも私の前に座る。
「はい、どうぞ。」
「まずは…そうだな、あそこはなんなんだ?」
「あそこは遺跡です。恐らく、今日先程まではミゾレが結晶体として封印されていたはずです。」
「結晶体?封印?」
「はい。この街にはルパラディとグーテンベルクと呼ばれる二つの家が存在します。そのうちルパラディの当主が私です。」
「は、はあ。当主、というほどこの家は大きいようには見えないが?」
「はい。ルパラディとグーテンベルクの家系は昔から魔術というものが使えます。その為か、街の人間からは悪魔だと嫌われてきました。」
「なるほど…それで…」
「そしてもう一つ、黒咲家という東洋からの家系がこの街に存在します。」
「それって…さっきの奴らのことか?」
「そうです。しかし黒咲家とは、極悪な家系で、人を殺すことを楽しむような人達なのです。…それで、ルパラディとグーテンベルクは手を組み黒咲家を滅するべく戦っていました。」
「終わってないのか?…さっきのやつがいたってことは。」
「いえ、終わりました。終わったはずなのです。アダム・ルパラディ…私の父は命と引き換えに若き当主、黒咲ミゾレの封印に成功しました……が、どうしてか今日、その封印が解けてしまったようなのです。」
「待て待て、それってやばいんじゃないの…!?」
「はい。何なら彼らも魔術の使い手です。放っておけば無力な一般人は皆殺しに終わるでしょう。」
「じゃあ、早く止めないと…!」
勢いよく立ち上がるが、レイシャは落ち着いて語りを続ける。
「ので、貴女のその力が頼りなのです。」
「なんだっけ…えーと…」
「天変地異の炎です。本来それは魔術を使用できるルパラディ、グーテンベルク、黒咲家だけが持つ力です。」
「それを私が今持ってると?」
「はい…ですが、不思議な点が一つ。私はこの体に既に炎を宿している為、容量が無く、代わりに貴女に炎を託しました。」
「それは…良かったのか?」
「いえ、むしろ丁度良かったのです。容量がない私では炎を持ち帰ることは出来ない。探しに行った直後に気付きました。なので貴女という空っぽの器に頼りました。」
…やっぱバカか?こいつ。炎を探しに行って容量がないから持ち帰れない、だから私という容量を使ったと。
…というか。
「その炎ってのは、なんであそこにあったんだ?」
「それは、父の炎です。先の通り、父はミゾレを封印したと共に死にました。しかし炎だけは遺されていくものなのです。」
「全く頭に入ってこないッ…」
「当然でしょう。私と共にいればいずれわかります。…というか、炎を取り込んだ以上はいてもらわないと困ります。」
「そもそも、何で私だったんだ?」
「そこに居たからです。…が、まさか本当に炎を取り込むとは思いませんでした。」
「え?…まさかとは思うけど…」
「はい、失敗すれば死んでいました。」
「バカーーー!?」
バカーーー!?こいつ、それをわかってて試させたのか!?
「すいません。ですが、貴女なら大丈夫だと、思いました。」
「そう思ったからって…」
ダメだな。この女と話していると気が狂いそうだ。
「私はこれからどうすればいいんだ」
「まずはグーテンベルクの当主と話し合います。貴女の報告もします。」
「なるほどな。」
「ですが、気をつけてください。彼の、ミゾレの能力は創造です。」
「創造…?」
創造、名前のままで考えると恐らく、無から剣を生み出したあの力だろうか?
「あの能力は剣に限らず、固形物であれば大抵は作ることの出来る能力です。機械生命体の様なものを作った実績などもあります。」
「つまり、街を歩く際も敵がいるかも知れないから気をつけろってわけですか。」
そこまで言い終わったところでカレンダーが目に入る。…それがただのカレンダーであれば、そのまま日付を確認して目を逸らしていたが。
「なぁ、レイシャ。今って2010年だよな?」
自分が生きている時代の確認をする。
何故なら、あのカレンダーにはーー。
「ん?…いえ、今は1922年ですが?」
私の中で、時間が止まった気がした。