【天変地異の炎】
部屋の中は空虚だった。
しかし、ただ一つ、部屋の中央に炎が浮いている。
「あの炎はなんだ…?」
その疑問にレイシャが答える。
「あれは…天変地異の力。」
「天変地異…?レイシャ、何を言って…」
そこで背後から、なめらかな男の声がする。
「ゲームオーバーだ。お嬢さん達」
アイツだ、殺戮者だ。
もうダメだ、と脳が叫んでいる。
嗚呼、思考はこんなにも落ち着いているのに何故だろう、身体の震えが止まらない。
「ねぇ、その光に触れて!」
レイシャは紫の炎に触れろと言う。
何にせよ、このままでは間違いなくバッドエンドだ。
「レイシャ、それで、助かるのか?」
「はい」
一か八か、だ。触れてみるしかないのだろう。この際だ、いくら熱かろうとあの殺戮者に殺されて死ぬよりはマシだ。焼け死んでやるとも……!
私は、炎に触れた。
「熱っ…く…ない…?」
熱くないのだ。そもそも、これは本当に炎なのだろうか。下に台があり、その上に炎が置かれてあるのでは、とも思ったが、どうやらそうでもないらしい。その不思議な炎に対し殺戮者は少し焦った様子で質問する。
「…おい、それは天変地異の力じゃあないのか?」
レイシャは、殺戮者にやはり落ち着いた声で答える。
「そうですね。これは確かにその力です。そして、貴方は今からその力を宿したこの娘に負ける。」
「どうかな、レイシャ・ルパラディ」
ルパラディ?
その苗字を聞いて疑問に思った。
その苗字は私の苗字と一致している。
しかし…レイシャ・ルパラディ。
…聞いたことがあるような。
「…そろそろ炎から手を離して構わないですよ。貴女。」
「フルールだ。フルール・ルパラディ。」
「わかりました、フルール。では天変地異の力を使い、殺戮者である黒咲ミゾレを、討伐してください。」
何を言っているんだ、コイツは…。
討伐…?片手で人の身体を抉るような化け物を…?
「本当に、私に出来るのか…?」
当然の疑問だ。
私は思い出したように炎から手を引き抜くが、なんと、炎が手についてくるではないか。
「っ……これは…?」
「それが、天変地異の力です。有り体に言えば貴女のステータスを一定までブースト出来ます。」
「いや…わからんよ…?」
私の疑問にレイシャが答える前に黒髪の…いや、黒咲ミゾレは怒りの声をあげる。
「ごちゃごちゃうるさいな…いいか、オレも天変地異の力は扱えるんだ。」
「…だ、そうだけど?レイシャ。」
「確かに、それはマズイですが…まさか痛みの一つも無く力を取り込んだ貴女なら、或いは…。」
「そ、そうか。それで?どう使うっ……て」
言い終わる前にミゾレは紫の炎を手に宿した私に対し殴りかかってくる。
…が、その攻撃は何故かあまりにもゆっくりに見えた。
「これなら…避けられるッ…」
「チッ……避けたかッ」
全然余裕だ。これが、私の力…?
ミゾレは、右手に同じ紫の炎を宿していた。しかも、その炎は剣の形へと変わっていく。
「これがオレの天変地異の能力だ。」
今度は斬りかかってくる。
また避けることが出来る、と思ったが、それは違う。先程とは比べものにならない速さの剣さばき。
「ダメだ…っ」
恐怖から目を瞑り、諦めてしまう。
…しかし、刃は当たらない。ゆっくりと目を開けると私はミゾレの背後にいた。
「…ほう。それが、お前の力か。」
続けてレイシャが言う。
「瞬間移動…?空間転移…?…兎も角、凄いわ貴女!」
「あ?あぁ、何だかよくわからないけど…!」
手がひとりでに前に立つ男を殴る。
男はよろめいた。
「ゔッ…中々、炎の質が良いと見た。良いだろう、起きたばかりのオレじゃあ満足には戦えない。今度は万全の状態で貴様らを殺してやるとするさ」
「起きた…ばかり?」
「ハッ、すぐにわかるさ」
それだけ言い残すとミゾレは足元から消えていく。
「逃げましたか。…いや、空間転移なんて炎の力あってのもの。初めから空間転移で逃げるつもりだったのでしょう。」
「…説明して貰いたいことが沢山あるんだけど?」
「そうですね。ですが、ここはとても暗い。外へ出ましょう。」
「で、出られるのか?」
レイシャはコクンと頷くと、元来た道を戻っていく。そして中央地に来る。
「これは酷いですね。」
「……ああ。」
赤黒く、生臭く。
血の匂い、死の匂い。
地獄のような惨状に吐き気が止まらない。
「ここにいては居心地が悪い。早く外へ出てしまいましょう。」
中央地から分かれた幾つかの道のうちの一つを進む。すると、いずれか光が見える。
「あれが、外…?」
「はい、外ですね。」
外の光は既に目前だが、レイシャはその場で立ち止まる。
「改めてよろしくお願いします。フルールさん。私はレイシャ・ルパラディと申します。」
レイシャは優しく微笑んだ。