【真紅】
「ここ…は?」
周りを見渡す。他の生徒もしっかりいたが、他に違うクラスの奴らもいるようだ。しかし全員私と同じ反応だ。誰もここがどこかわかっていないらしい。
「とりあえず…脱出しなければ…」
暗く、とても寒い。
洞窟…?兎も角、遺跡であることは理解した。その証拠にかつての人類の残した痕がここにはあったからだ。
歩く。歩く。歩く。
どれだけ歩いても暗闇。仲間とはぐれようが私には関係がないのだ。
「はあ……はあ…。」
息が苦しい。酸素が足りない。視界もぼやけてきた。このままではマズイ…か。なんとか脱出を…。
その時だった、自分達が元いた、恐らく中央地点と思われる場所から叫び声が聞こえる。暗くて何も見えない為か、聴覚だけは異常なほど働いていた。
「うわぁぁああ!?なんだこいつ…!ひっ…た、助け…ッ!」
助けて、と。そう聞こえた気がする。
戻るか、先に進むか。何かを見つけたいのならば確実に戻った方が探索が一歩進むのかも知れないが…何故だか、私の体は震えていた。
「…ッ、しばらく歩いて寒くなくなったとは思ったんだがな…」
違う、この言葉じゃない。頭ではわかっている。これは間違いなく恐怖だ。私は恐怖しているのだ、この暗闇に、状況に。そしてそれを後押しするかのような叫び声に。それでもーー。
「戻ろう…確かめなきゃ…私は…」
私は…何故戻ろうとしているのだろう。怖い、怖い、怖い、怖い。
自分の感情を操作できない。
「歩いて…」
帰りたい。
「歩いて…」
逃げたい。
「それでも……」
中央に到着する。私は、そこで恐ろしいものを見た。
「…ん…なッ…!?」
真紅に染まる、中央地。
人が、沢山倒れている。中には体が裂けているものもあった。そして…。
「あ…あ…」
声が出ない…か。私は目の前の人間が目に入った。二人いる。一人は黒髪の青年、同じくらいの年齢だろうか。
更にもう一人は……見覚えがある。金髪の…名前はしらないが、朝に声をかけてきたナンパ野郎だった。
「…おい、二人共ここで何を…」
声をかけると、すぐに返事が返ってくる。ナンパ野郎からの返事だ。
「た、助けて…助け…たすっ…」
「…何、からだ…?」
周りの悲惨な状況を見れば、何かがあったことは間違いないのだが、その原因がわからない。
…しかし、その原因とやらはすぐにわかった。目の前の黒髪の男が、ナンパ男の腹を手で抉ったのだ。
「なッ……!?」
「ゔっ…ご…ぶ…ふはッ……」
黒髪の男は相手の腹に刺さったその腕を一気に引き抜くと、その手は内臓を…心臓を掴んでいた。
私は、逃げ出した。
「はあっ…はあっ…何なんだアイツは…!」
まさか、アイツが全部一人で?
バカな…そんなバカな…!!
「っ……」
どこを目指しているわけでもなく、私はただ走った。すると、その先に一人の女性がいるのに気付いた。
「はあ…はあ…君は?早く逃げた方が良いよ…」
「え?なんで…ですか?」
「チッ……いいから、早く」
女の腕を掴み、私は走る。
こいつ、自体に気付いていない?
だったら尚更だ、こんなわけのわからないところで無駄死にさせるわけにはいかない。
「な、なぁ!お前、名前は?」
走りながらに聞く。
もしかすると、これが最後に聞く他人の名前になるかも知れないが。
「えっ?…と、私は、レイシャ!レイシャ・アハトワ…!」
「そう!レイシャ!ちゃんと着いてきてねッ…!」
もっと速く走る…追ってきてるかはわからない、けれど安全な場所さえ見つかれば…!
しかし、レイシャはその場で止まり、座り込む。
「レイシャ、何を…」
「えへへ……私、体力ないから…」
「でも置いていくわけには…!」
暗闇から何かがゆっくり迫ってくる。
来ているのだ。このままでは追いつかれる。
「レイシャ、早くっ…て、その扉は?」
前方。暗かった為、よく見えなかったがいざ立ち止まると、丁度前方に扉があることに気付いた。
「開く、か…?」
その扉を押してみるがビクともしない。レイシャも立ち上がり、一緒に押すが、やはり開かない。
「これ、押したり引いたりする扉じゃないと思います…」
「え?」
「少し…下がっててください。」
私はその言葉のままに離れる。
「早くしないと追いつかれるよ!?」
「…扉よ。」
レイシャはその扉に手を添えると、ゆっくり目を瞑った。すると、扉は自動ドアの様に、横に開いた。
「す、凄い……。」
「行きましょう。」
「あ、うん……」
私達は扉の先の部屋へ、足を踏み入れた。