【打開策】
「大丈夫ですか、フルール。」
「んあ……」
名を呼ぶ声に反応し、目が醒める。
このまま、元の世界に戻れたら良かったんだが、そう上手いこと世界は出来ていないらしい。
「ここは、何処だ?」
「私の家です。」
私は覚えている記憶から、次に出すべき言葉を絞り出す。
「…はあ、追って、こなかったな。」
「回収作業をするからでしょう。」
「回収作業?…いや、炎は一人に一つまでと聞いていたが…」
「はい、なので恐らく召喚獣に持たせるのでしょう。」
「…んー、召喚獣がわからないなー、私。」
召喚獣というと、二頭身の妖精みたいな感じのやつなのだろうか?
ドラゴンとか。
「召喚獣、鍵と呼ばれる存在です。言わば自動戦闘装置……ミゾレのロボット兵の上位互換です。」
「そんなのがあるなら最初から出しとけば勝てたんじゃないのか…!?」
そんなものを作れるのならば、確かな一手にはなった筈だ。
「簡単に召喚出来るものではないんですよ。」
「なんか魔法陣とか?作るのか。」
「はい、高度な魔術なので。私の母は得意としていたのですが…その技術を私が渡されていなくて。」
「しかも、それをミゾレが使えると…。はあ…余計に詰みだと悟ったな。」
「……試して、みますか。」
デメリットはあるのだろうか。
しかし、このまま何もしないわけにはいかない。正直、街の人間の命も同じクラスの人間の命もどうだっていい。
だって私には関係がないのだから。
人間はいつだってそうだ。
自分に関係のないことは笑い話で済ませる。なのに…なんなんだよ、あの目は。
ナンパ男がミゾレに殺される瞬間の私に助けを求める時の目がよぎる。
私が何をしたというのだろう。
私はどうしてこんなことをしているのだろう。
「わかった、やろう。」
どうして、前にしか道はないんだろう。
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「こんなとこがあったのか…」
私はレイシャに連れられてルパラディ家の地下に来ていた。地下に続く階段があった時は驚いたが、なんなら魔術なんてものが存在すると知った今ではもはや何も衝撃には届かない。
「はい、私の父と母が使っていた隠れ家です。魔術実験なども此処で行われていたようです。」
薄暗く、狭い部屋だ。
壁全体が石で覆われ、酸素も少ない。
ただ一つ部屋の真ん中に大きな魔法陣があるだけの部屋だ。
明かりは蝋燭だけで、その他のものは存在しない。
「ここで召喚獣…あー、いや、鍵?とやらを召喚するのか。」
「はい。ですが、仮に召喚に成功しても相性が悪ければ殺される可能性もあります。」
「…ふむ。」
「いざという時のために瞬間移動の準備はお願いします。」
「努力…する。」
まだイマイチ感覚は掴めていないが、諦めて死ぬよりはマシだろう。
「行きますよ。」
レイシャは魔法陣に向けて平行に手を伸ばす。その手が紫の炎に包まれるのを確認するとレイシャは目を閉じる。
そして、この静かな空間に、レイシャの息を吸う音だけが聞こえる。
『W-G-g-u-t-k-S-t-p-o-l-t-s-t-d-t-d-t-w-n』
レイシャがアルファベットを口にしていく。恐らく、これが詠唱とやらなのだろう。私にはアルファベットを適当に並べて喋っているようにしか聞こえないが、何か意味のあることなのだろう。私は、ただ見るだけしか出来なかったがーー。
瞬間、魔法陣は赤く光る。
レイシャの炎は魔法陣に落ちるように吸い込まれていき、炎は人の形を形成していく。
綺麗な光だ、と。そう思った。
しばらくして、炎が人の形を完成させると勢いよく燃え盛る。炎の圧に負けそうになるが、私は炎を凝視した。
すると、中には人がいるように見えたのだ。
レイシャは立ちくらみを起こしている。倒れかけるレイシャを支えつつ、炎から目を離さない。
「そこに、誰かいるのか…?」
声をかける。
炎は段々と薄くなって行き、中にいる人の姿をハッキリと映し出す。
「ああ……赤ノ鍵。私が、赤ノ鍵だ」
ーーそこにいたのは、ボウガンを手に持った赤い髪の女性だった。