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吸血忌譚  作者: 腹痛朗
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他を見ることは許されず

 建物はあまり隠しているという印象が無く、入れば受付カウンターがあるほどだった。


「普段は博物館として経営しているわ、『茶会』の拠点は4階以上。貴方達も来たことがあるんじゃない?」


「館内禁煙ってのが、俺みたいなヘビースモーカーには辛いところだがね」


「源十郎、貴方は吸いすぎよ、だから老けて見られるの」


源十郎さんを取り巻く『色』は、靄のように真っ白だ。それは確かに、煙草の煙のようで、笑いそうになった。


「さ、行きましょ、所長達に話を通さないと」


人の少ない館内では、足音が良く響く。1歩進むごとに、自分がどこにいるかわからなくなって不安になるほどだった。高い天井を見ていると、知らない所に来たという実感が湧いてきて怖くなる。

と、僕の心の動きを感じたのか、望が手を繋いでくれた。いや、彼女も不安なのだ。浮き世から、現実感のある場所に連れてこられて、夢から覚めたみたいに。


「おっと、坊っちゃん方はそういうご関係で」


あっ、と声が出て、望の手が離された。彼女の色が、羞恥からか赤っぽく染まる。以前は自分に向けられる悪意や下心しか見ることの出来なかった僕の目は、いつの間にか万人の感情が見えるようになっていた。大人数を見ると頭と目が痛くなるようにもなっていた。


「た、確かにさっくんのことは好きだけど、まだそういうことになる予定は無いぜ」


「僕がいなかったら、望は野垂れ死ぬと思うけど」


「否定は出来ないのが悔しいぜ」


「ちょっとー!?いつまで突っ立ってるの、エレベーター来ちゃうわよー!?」


見ると、アリスがエレベーターの前で仁王立ちして怒っていた。謝りつつ、そこまで走る。丁度この階まで降りてきたようで、ドアが開く。アリス、僕、望、源十郎さんの順で入る。アリスが押したのは最上階の6階だ。……そこに、広史さん達がいるのか。

小さな浮遊感が2回。至極短い時間で最上階に到着した。心の準備というものが、上手くいっていない。でも、アリスは先頭をツカツカ歩いていくし、源十郎も迷い無くその後を付いていく。待っていてはエレベーターの扉も閉まってしまう。ぼうっと何も出来ずにいると、背中に衝撃が加わって、強制的に一歩進まされた。


「迷うなさっくん。オレに付いてこい」


「いやだからそれ男女逆転してるよ、台詞」


いつもと変わらない望に、安心感を覚える。いや、僕を安心させるために、虚勢を張っているのか。どちらにしろ、彼女がいると、こういう想定外の事態でも平静を保てる。


「さっくんはオレの嫁だからな。アリスがいくら美人でも、外の女に惚れたらさっくんを殺してオレも死ぬぜ」


目が本気だった。怖い。なんだ、化物よりも何よりも、一番怖いものがすぐ側にいたじゃないか。

あまりの恐怖に、毛が全て逆立った。望はカッターナイフを持っていた。鉛筆を研ぐために学校に持っていっているもので、彼女はそれをいつも制服のポケットに入れていたはずだ。

つぷり、と肉を裂く音が聞こえた。

______死んだ。どうしようもなく。ただナイフで刺されただけなのに、不死身の体も、何も無かったかのように、死を実感させられただけで死んだ。

視界は暗く、耳に、アリスと源十郎さんの足音が聞こえてきて、直後、望の血液が、僕の感覚を消し去った。



***



 「……っはぁっ!?はぁ、はぁ……」


荒い呼吸が繰り返される。夢を、見ていたようだ。とても、不吉な夢を。


「さっくん、平気か?」


汗が酷い。体を確める。異常は特に無い。状況を確認すると、まだ車に揺られていた。アリスも不安そうに僕を見ていた。


「ごめん、居眠りしてたみたいだ。もう、大丈夫だよ」


笑顔を作る。まだ心臓は強く鳴っていたが、息は整い、体調に問題は無い。


「寝てる間に着いたぞ、我らが本拠地、茶会の会場だ」


目前には、白い建物。


「博物館、だっけ」


「あら、知ってたの、てっきり所長達が隠してるものだと思ってたけど」


「あ、うん、行ったこと、あるかも」


違和感を抱えて、僕は運命の場所に臨もうとしていた。

BADEND1 足音は遥かに


ちょっとぶりに死にました。いや、衝動的に殺したくなってですね。でも割と上手くまとまって嬉しいです。

今回は予約投稿を試してみました。まだ慣れません。

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