少女の物語に過去を馳せて
「能力って、一体なんなのさ」
「オレ自身、そんなのに覚えは無いぞ、化物になったなんて言われる筋合いも無い」
前者は確かにそうだが、後者は僕は把握していることだった。彼女は知らないだろうが、僕に噛まれた跡はもう治っていることだろう。
「望、ちょっとごめんね」
「ん?」
彼女の首筋に貼った絆創膏をそっと剥がす。そこにはもう傷は無かった。剥がされた違和感からか望は傷のあった場所に触れた。と同時に、目を見開いた。
「ごめん、望。僕が君を化物にしてしまったんだ」
「ああなるほどそういうことか、説明感謝だぜさっくん」
「軽いわね、重大な事実を告げたんじゃないの……?それと、貴方達が怪異になったのって、もしかしてつい最近?」
「昨日の晩だよ」
「さっくん曰く今日の朝みたいだぜ」
事実を端的に述べると、アリスの顔がこれでもかというほど曇った。源十郎さんの方は吹き出していたが。
「嘘でしょぉ、折角真祖の吸血鬼を仲間に出来ると思ったのにぃ……」
「お嬢は下調べがいつも足りてないからなぁ、反応があるのを見るとすぐ出てっちまうから、本当に彼のアリス・リデルだ」
「う、うるさいわよ源十郎。それに散々名前でいじられてきたんだから、やめてくれる?」
「あー……っと、僕達用なしだったかな」
「いえ、そんなことないわ、ちょっと期待と違っただけで、怪異は歓迎なんだから」
期待とは違ったらしい。責任は無いけど、なんだか申し訳なくなってくるなぁ。
「そういやこの車どこに向かってんだ?外の景色を見る限り、オレ達の家の方角だけど」
「私達の活動拠点よ、貴方達の家に近いのは偶然だと思うけど」
そこまでアリスが言うと、源十郎さんがまた吹き出した。もう耐えきれないといった様子だ。
「何よ源十郎」
「いや、まだ気付いてないのかお嬢。その子ら、榊原所長さん方の娘さんと養子の坊っちゃんですぜ?」
「えっ、えええええええええええーーーーーー!?」
「耳元で叫ばんでくれお嬢、運転してるんだから耳を塞げないんだ」
「お、おいおい待てよ、父さん達が何か関係あんのか」
「ああ、あんた達のご両親はね、日本における『茶会』の代表なのさ、あんた達には必死で隠してたようだけど」
もうだめだ。頭がついていかない。自分が化物で望も僕のせいで化物にして、その望にはもう1つ超能力があって、世界には化物に対する組織とそれに敵対する組織があって、その内の片方のボスが広史さんと怜美さんだという。
「ん、整理終わった。話を戻したいんだけど、望の能力っていうのはなんなの?」
「え、さっくんそこに話戻すのか?」
「最初に聞いてたことだし」
「貴方達の会話のペースが掴めないわ」
アリスは常識人らしい。こういった人が近くにいると自分の変人っぷりを自覚させられることこの上ない。
「うん、おかしいのは知ってるよ、君は名前でからかわれるのが嫌らしいけど、僕は頭がおかしいからね、さながら茶会の帽子屋さ。アリス、教えてくれるかな」
「はぁ、呆れるわ朔くん。もう怒る気にもならない。えっと、望さんの能力の話よね、これがわからないの。確かに反応はあるし、それはとても強いのだけど、詳細が一切不明。その調査もしたいのよね」
「ありがとうアリス。からかっちゃってごめんね、アリスのお話が好きなものだから、ちょっとテンション上がっちゃった」
「ああ、小さい頃に本買って、今でも読んでるからあれボロボロだよな」
「ん、違うよ望。あれは貰ったんだ。誰に貰ったのかは覚えてないけど、家族の誰かじゃ無かったよ」
「おっと坊っちゃん方、そろそろ見えてきやしたぜ、我らが本拠地だ」
フロントガラスから外を見ると、真っ白な建物が僕達を待ち構えているのだった。
話が中々進みませんね。こっちのキャラ達は喋らせるのが楽しいのでこうなってしまいます。何度も殺しておいてどの口が言うって話ですがね。