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吸血忌譚  作者: 腹痛朗
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隠されし何か

 サイレンの音がしてきて数分。保健室に複数人の足音が聞こえてくる。乱暴に扉は開けられ、飛び込んできたのは。


「なんだアンタら!?」


最初に声を上げたのは望だ。目の前の状況に、良く声が出せるものだと称賛を送りたい。

なぜなら、僕らの目の前にいたのは、裏社会の人間としか思えない黒服で厳つい男達だったのだから。

警戒して、僕も体を化物の状態へと変化させた。爪は凶悪に伸び、あらゆる感覚が鋭くなっていく。

と、黒服の1人が銃を構え、僕目掛けて撃ってきた。この体で銃弾がどう見えるか知らなかったが、どうやら十分反応出来る。中指の爪の先を銃弾の弾頭に合わせる。今までどんな行為にも耐えてきた白銀の爪は、今回も、______攻撃を跳ね返すことは叶わず、中指が弾かれ、あらぬ方向に曲がる。化物の肉体に、それだけでは痛みを与えることは出来ないが、少なくない驚愕を僕にもたらした。

男達はもう2人いて、彼等も銃を構え、撃ってくる。僕1人なら避ければ対処できるが、今は後ろに望がいる。自分勝手な行動はとれない。どうやら男達の狙いは僕のようだから、なんとか撃ちきるまで耐え、リロードの隙に間合いを詰めれば、勝ちの目はある。

よくよく観察すれば、男達の撃ってくる銃弾は鉛では無いようだった。古来より怪異殺しのために用いられた金属。すなわち銀だ。僕にもそれは例外ではないようで、死ぬにまでは至らないが、傷の治りが遅い。しかし、ハンドガンで僕の命を削りきるには、やはり弾数が足りないようだった。


「残念だったね!」


跳躍、そのまま1人に踵落としをかまし、防御に使っていた腕は動かなかったため2人目に頭突きを食らわせ、3人目には吸血鬼らしく首筋に噛みついて気絶するまで血を吸ってやる。ものの数秒で僕より頭2つ分は背が高く、まな板3枚分は体の分厚い男達は無力化された。


「さっくん、こいつら……」


「なんだったんだろうね、見た目的に、組織ぐるみな感じがして、ぞっとしないけど」


「そうね、あまり派手に敵対するのは感心しないわ、真祖の吸血鬼さん?」


彼女は不意に現れた。日本人とは思えない銀髪と、海のように深い青をした瞳。日本人離れどころか、人間離れした印象すらあった。


「でも、貴女は敵じゃなさそうだね」


なんとなく、歳が近い気がしたから、なるべくフレンドリーな感じで話しかけてみる。傷も治っておらず、血みどろな見た目で、フレンドリーも何もなさそうではあるけど。


「そう。貴方達をスカウトしにきたのよ。真祖の吸血鬼と、その眷族なんて、滅多にいるものじゃないもの」


真祖の吸血鬼。フィクション作品では良く聞く名前のように思える。人が吸血鬼になったのではなく、最初から吸血鬼だったもの。その力はあらゆる怪物を凌駕できるとも言われている。


「やいやい、黙って聞いてりゃなんだい流暢な日本語喋る外人の姉ちゃん。さっくんを口説くんなら、まずこのオレに話を通しやがれ!」


「あら、ごめんなさい可愛い眷族さん?」


その言葉を言ったか言わずか、銀髪の少女は望の目の前に移動していた。この瞬間、本当に彼女が敵対者でなくて良かったと思った。彼女が敵なら僕はなすすべなく殺されていただろう。近代兵器も効きにくい化物には、単純な戦闘能力で捩じ伏せるのが最も有効だろうから。

強者の気配を感じとったのか、望も動けないでいるようだった。


「でも、もう時間が無いわ、このままだと私も含めて殺人容疑で連行される。さっきのサイレンはダミーだけど、今度は本物がくるわよ」


彼女の言うことはもっともだった。死体が皮しか残っていない先生は兎も角、死んでいないにしても確実に傷つけた痕跡のある男達の方は言い訳が立たない。僕の傷や血液は消えてしまうから、何かしらの手段を用いて一方的に傷害したと思われてしまうことだろう。


「でもアンタ、逃げ場のアテがあんのか?国家権力舐めるのはそれこそ感心しないぜ」


「大丈夫、着いてきて、車が用意してある。貴方達の濡れ衣が晴らせる権力の準備もあるわ」


上手くいきすぎな話な気がするのは否めないがこのままでは良くて犯罪者、悪くても犯罪者である。選択肢というものが、この場には無かった。




 学校の裏手に、その車は停まっていた。黒塗りで背の低い車。僕はそれらに詳しくないから車種などはわからないが、高そうな車だということだけはわかる。


「乗って、詳しいことは中で話すわ」


少女は躊躇いなく助手席に乗った。僕達もそれに続いて後部座席に乗る。運転席には、どういう関係なのか無精髭を生やした男性が乗っていた。


「いいわ、出して源十郎」


ずいぶんと古風な名前のお兄さんであった。


「了解、お嬢」


名前の印象とは裏腹に、適当な人、といった雰囲気しかしていないが。少なくとも、他人のことを、お嬢、なんて呼ぶのが似合う人ではなかった。


「さて、じゃあ落ち着いてきたところで本題よ、信じてもらえないかもしれないけど、私達は世界的な怪異対策組織、活動の不明さからか、狂騒の茶会、なんて妙な名前で呼ばれているけど。私は伽夜アリス、貴方達のことは知っているわ、東雲朔君、榊原望さん」


得体の知れない組織の名前が出た。狂騒の茶会で、彼女の名前がアリスというのは、あの物語を思い出させて仕方がないけれど。


「へぇ、オレ達は有名人ってことかよ、んで、そのお伽噺みたいな組織が、スカウトしにきたってのか?」


「ええ、私達は怪物達の保護と生活の安全を確保するために動いている。そしてさっき貴方達を襲ってきたのは私達に反抗して、怪異絶滅を目指している組織、彼等は自分達のことをジャバウォックなんて呼んでいるけど」


なるほどそっちも『アリス』繋がりか、中々お互いユーモアがあるじゃないか。


「それで私達は、常に自分達に協力してくれそうな怪物を探している。昨夜この町で反応があって、今日コンタクトをとったのだけど、まさかあんなに集中的に狙われているとはね」


「わかった。僕も協力するのは吝かじゃないよ、でも望は関係ないんじゃないか、彼女は怪物じゃない」


……いや、もしかすれば僕が怪物に変えてしまったのかもしれないけれど。


「望さんは貴方の眷族でしょう朔君?それに、彼女には怪物としての能力以外に、もう1つ生まれもっての力があるわ」


その言葉に、僕はもちろん、望すら驚いたようだった。


「なんだよそれ、オレ、そんなの知らないぞ!」


「そう、自覚が無いのね、私達は怪物以外にも、それらと戦うことが出来る人材も探しているわ。怪物というのは、全てが友好的ではないから。そういう人材、平たく言ってしまえば、超能力者と言われる存在。それを探す設備に、貴方の反応があったのよ、望さん」


僕達の日常は、音を立てて崩れようとしていた。

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