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吸血忌譚  作者: 腹痛朗
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終わりなき悲劇

 床が冷たい、というのが意識が戻ってから最初に覚えた感覚である。それによって自分が今フローリングに着の身着のまま寝転がっているのを確認した。起き上がろうとするが、酷い頭痛がしてそれを阻んだ。視覚は安定していない。あらゆるものが眩しくてまともにまぶたを上げることもできない。

触覚、床の冷たさを感じている。

嗅覚、特に何も感じない。麻痺しているというより、匂いを放つものが周囲にないのだろう。

味覚……は確かめようがない。床の味は知りたくないし。

聴覚、人が死ぬ寸前まで残っている五感はこれだという。体は動かせないし、目もまともに見えない。少し耳をすましていると、聞き慣れた声がしてきた。


「さっくん、おい、おいってば」


「もう来ちゃったよ~」


「これ以上意識が戻らないようなら救急車を呼んだ方がいいんじゃないか?」


「……おき、てる、よ」


声帯がうまく機能していない。声を出すと頭痛が重くなる。しかし、どうやら話しかけてくれていたのはいつもの3人らしい。


「大丈夫か!?起き上がれるか!?」


望が随分必死な様子だ。あまり心配させても良くない。歯をくいしばって頭痛を無理矢理に抑え、言うことを聞かない筋肉に鞭打って起き上がる。我が幼馴染3人組は僕を囲んで仲良く座っていた。


「おはよ、みんな、僕どれくらい寝てた?」


まだ、声を出すのが辛い。それ自体が罪であるかのように、ガンガンと強い痛みが僕を苛む。


「おはよ、じゃねーよ!オレが弓弦達迎えに行ったら後ろからものすごい音がして、何事かと思ったらさっくんがぶっ倒れてるんだから、この世の終わりかと思ったぜ!」


そうだったか、なんだかもっと大変なことがおきていたような気もするのだが。


「ていうか大丈夫なん?朔っち体調悪いならもうアタシら帰るけど?」


「時間的には短かったが気絶というのは馬鹿にできないからな、1度病院に行った方がいいかもしれない」


2人から心配の目線が送られてくる。それを感じ取って望も不安そうだ。望は普段は男勝りで活発なイメージこそあるが、その実メンタル面は意外なまでに脆い。


「大丈夫だよ、ちょっと頭打っただけだから。遊びが白紙になるのは望むところじゃない、僕が基本健康体なのは皆知ってるでしょ」


笑顔を浮かべて立ち上がる。足は他人のもののように感覚が無かったが、誤魔化しはできたように思える。


「僕まだ制服のままだから、着替えてくるね」


「気を付けろよ、もっかい足踏み外して階段から転げ落ちられたら、オレはショック死しちまうぜ」


しれっと恐ろしいことを言う望に苦笑いを返しつつ、僕は手すりを掴みながら2階へと登っていった。





 着替えが終わるころには体調不良も治ってくれて、憂いなく遊びに行けるようになった。遊びといっても、中学生の遊び場なんて限られているもので、自転車でちょっと行ったところにある、数年前に再開発された地域のゲームセンターくらいだ。弓弦達もそこに行くつもりだったようで、自転車が2台、家の前に停まっていた。


「あ、あそこにいくんなら買い物もしたいな、確か豚肉が安かったはず」


「こらさっくん、それで前に夕飯の材料買いに行くだけになったことあっただろ。家計費厳禁、持っていくのは月3000円の小遣いだけだ」


望に叱られてしまった。仕方ない、豚肉はまた後日にしよう。

と、僕達が子供らしくないお金の話をしているところに、見覚えのある車がやってきた。


「望達の両親はこの時間が昼休みなのか」


そう、車は望の父母、広史さんと怜美さんのものだ。仕事場が家から近いので、昼食のためにこの時間1度帰ってくるのだ。

広史さんが持ち前のドラテクで車庫入れを済ませると、2人が車からおりて、僕達のところまで来た。


「あら、さっくんと望ちゃんはお友達とお出かけ?」


「いつも来てくれてる子達だね、望とさっくんをよろしく」


「朝の内に作っておいたものを冷蔵庫に入れてあるので、温めて食べておいてください、行ってきます」


「こんな時まで昼めしの話とか、もう筋金入りだよなさっくんは」


「いい主夫になれると思うわ~」


「一家に1台欲しいと思うな、朔は」


癖なのだから仕方ない。物心ついて家事ができるようになってからは家のことはほとんど僕がやっているのだし。


「いつもありがとね、休みたくなったら休んでいいのよ?」


「というか、オーバーワークだ、休みなさい」


「だよな、そのうち死ぬぞさっくん」


「そりゃ、人はそのうち死ぬよ」


「屁理屈言うなっての、さっくんが死んだら誰がオレの飯を作るってんだ」


そこは自分で努力してほしいところなのだが。というか確かに、僕が榊原家から出ていったら大変なことになりそうである。そろそろ人生設計を考えた方がいいのだろうか。


「朔っち~、話が弾むのはいいんやけど、そろそろいかん?時間がもったいないわ~」


「あ、ごめん!広史さん、怜美さん、それじゃこれで!」


「はい、気を付けてね」


「暗くなる前に帰ってくるんだよ」


2人に見送られつつ、僕達は自転車に跨がって目的地へと急ぐのだった。





 数時間後、遊び疲れた僕達はゲームセンター前の自販機でジュースを買い、手頃なベンチでそれを飲んでいた。


「いや~、遊んだなぁ」


「ふむ、今回も中々いいものを手に入れられたぞ」


真千はご満悦、弓弦に至ってはクレーンゲームで見事一発ゲットした犬のぬいぐるみをもふもふしつつ満面の笑みを浮かべている。


「このメンバーだとゲーセンのコスパがいいよなー」


そう言うのはメダルゲームで大勝した望だ。彼女は運が強い。


「僕は疲れたよ……」


僕ははしゃいでしまって、ゲームセンターにしかない体を動かすタイプのリズムゲームを数回プレイしてしまった。以前自分が打ち立てた店内1位の記録を更新できたので大満足である。


「あー、音ゲー上手いヤツってキモいよな、フルコン当たり前です、みたいな顔して」


「痛烈な批判だね!?」


まぁ確かに、フルコンボに加え全てパーフェクトをとったので、理論上あれを越したスコアは出せないだろう。自分で考えて、確かに気持ち悪い。


「さて、と。もう夕方だし、帰ろうか」


「おう、オレは構わんぜ」


「アタシも満足やな~、飴ちゃんいっぱい取れたし」


真千は真千で、お菓子をすくうゲームで大当たりして、大量の飴を獲得していた。今度機会があれば僕達の分もなにかしらとってもらおう。

こうして今日1日、何事もなく過ぎていくのだった。






帰り道、弓弦達と別れた後、僕と望は、人気のない路地を歩いていた。これだけ聞くとやましいことでも始めそうな雰囲気がするが、ただ単に近道で、道が狭いから自転車から降りて歩いているというだけだ。

まだ日は残っているが、暗くなりやすいこの路地では、すでに街灯がちらほら点いている。やがて路地を抜けると、大通りに出た。

しかし、出ると同時に違和感。


「ねぇ、望」


「わかってる、いくらなんでも人が少ないよな」


そう、一切人通りも、車通りも無い。店の電気や街灯がアスファルトを虚ろに照らしているだけ。一体何があったというのか。


「あ、いや、道路の向かいに人がいるな、いくらなんでも不安だし、声かけてみようぜ」


言うやいなや、車のない道路を歩行者天国が如く横切っていく。僕もそれにしたがって、男2人組と思われる人影に近づいていく。


「すみませーん、ちょっといいですかー」


さすがの望でも、歳上相手には敬語を使う。男達が振り向いた次の瞬間、

_________僕の幼馴染は、胸から血を吹き出して倒れた。


「ぇ……!?」


驚きのあまり、声が出ない。目の前には、肉塊と化したかつての同居人が、光の消えた瞳で僕を見つめながら倒れていた。

凶器は、武器としてのリアリティのあるサバイバルナイフだ。恐怖に足がすくむ、腰が抜け、みっともなく尻餅をついた。

びちゃりという嫌な音。望の生暖かい血が不快感を伴ってべったりと服につく。

次の時、男達が取り出したのは、非現実的な銀色の長剣。それが、抵抗しない僕の心臓を貫いていく。

視界が赤く染まった。思考が消え去った。次に痛覚すらどこかへいってしまう。体の感覚はもう皆無だ。それでも、悲しいほどにハッキリ聞こえた声があった。


「……望」


その声の主が己だと認識する前に、僕の意識は闇の底に沈んでいったのだった。



DEAD END2 人無しの道


ということでまたもや死にました。勘のいい方……というより大概の人がどういう仕組みか理解しているかと思います。バトルタグは暫く詐欺になりますが、ホラーを楽しみつつ期待していて下さい。

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