家族かそれ以外か
ふぅ、と息を吐きながら自分の椅子に座る。アリスには来客用の良い椅子を用意したのだが彼女の優雅さにはその椅子も霞んでいる。
「さっくん、浮気、ダメゼッタイ」
ちらりと視線を向けただけなのに望はカッターを取り出している。刃は出ていない。まだ本気では無いようだ。
「望さんっていつもそうなの?」
「ん?どこらへんのことだ?」
「カッターを常に持ち歩いていたり、すぐそれを構えたり……」
「んー、カッターを持ち歩いてるのは鉛筆削るためなのとあると何かと便利だからだぜ、構えるようになったのは最近だ、さっくんに色目使う女がいるからなー」
ジトッ、とアリスを睨む望。それにしても、制服の時だろうと私服と時だろうと、下手をすれば水着の時にすらカッターを持っているのは危険人物の思考だと思うんだけど。
「あら、私色目なんて使ってないわよ、朔君がデレデレするのが悪いんじゃなくて?」
「ちょっとアリス……!望を刺激しちゃ……!」
僕が言うまでもなくキチキチキチと音がしている。
「さっくん、先にアリスに話しかけるなんて酷いぜ?オレはこんなにさっくんのこと思ってるのに」
キチキチ、と更に2段階。不味い、あと3つ解放されれば命が無い。
「ほら3人とも、ご飯中だから大人しくしなさい」
「む、はーい、わかったぜ」
「ふふ、大丈夫よ望さん、私朔君を恋愛対象にしたりしないから」
「僕だって同じだよ、そんな心配しないで望」
「じゃあさっくん、後でキスしようぜ」
「どうしてそうなるのさ!?」
「良いじゃん減るもんじゃないし」
ううむ、こういう思考のぶっとび方は僕も理解出来ない。
「もっと激しく求めあおうぜ、熱烈に!退廃的に!」
「ダメよー、R15じゃ済まなくなるから」
そもそも僕達は15歳にも達していないのだから駄目に決まっている。しかし、望とキスだなんて、考えたこともなかったな……。
って、何考えてるんだ、煩悩滅殺!
「さっくん?早く食べないとなくなっちまうぞ」
うん、目の前で肉を頬張ってる娘に色気なんぞ欠片も無いし、気の迷いだ。
「でも夫婦だの嫁だの言ってるのに、キスの1つもしないなんて矛盾してないかしら?」
「ぷら……じゃない、タイタニックってやつだぜ!」
「望、それじゃ沈む、プラトニックだよ、最初言いかけたので合ってるよ」
「なんとなくわかるけどね、もうそういうところは飛び越してるんだと思うわ」
「そうだな、コンコルドだな!」
「望、それじゃ採算合わなくなる、ボーイングでいこう」
「新婚旅行の話か!?」
否定はしないが話が75度くらい逸れてる。
「俺達は熱海だったね」
「新婚旅行の聖地よねー」
ああ、万年新婚夫婦が桃色オーラを纏っている。誰か!弓弦……は今会ったらまずいし、ああもう、どうすりゃいいのさ!
結局どう足掻いても暴走は止められず、酒が入ったかのような雰囲気の中、夕食が続くのだった。




