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吸血忌譚  作者: 腹痛朗
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悪意は弱く、また募る

 悪霧が、形を取っていく、人に近いが、決して人ではない、何かになる。


「驚いた、まさか明確な形を得るまで来ているとはね、構えなさい、貴方達は死なないだろうけど、気を付けないと細切れにされるわよ」


アリスの忠告を聞いて、体を化物のそれに作り替える。爪は伸び、痛覚は遮断される。完全に人間でなくなった感覚を確認して、改めて周囲を見渡すと、自分の目を疑った。


「なぁアリス、オレの勘違いじゃないなら、いつの間にか夜になってるぜ」


「……あまり無駄話をする時間は無いけれど、最低限言っておくわね、ここはある程度力を持った悪霧が作り出す空間。ここで悪霧は人の世界に間接的に影響して、災いを為す。言ってしまえば霊界とか、そんな感じよ」


「ここで暴れても、大丈夫なの?」


「地面が派手に抉れたりしなければ被害は無いはずよ、思いっきりやりなさい」


それを聞いて安心した。僕は悪霧に向き直り、その体躯を視界に納める。悪霧は今、2メートルはある、牛頭の怪物になっている。


「あれって……」


「ミノタウロス……というのはクレタ島に封印された彼の怪物のことを指すのだけれど、便宜上そう呼んだ方が良いわね。ラビリントスを持ってこられなくて助かったわね」


この状況で良くもまぁ冗談めかして言えるものだ。


「ウオオオオォオォォォォ______!」


しびれを切らしたとばかりにミノタウロスが咆哮した。手には大斧、鼻息は荒く、霧だったとは思えないほど、獣としての生命力を感じる。


「んーっと、オレ、ちょっと戦ってみていいか?」


望が教師に許可を求めるように手を上げた。


「って戦う!?駄目だよ望、危ないよ!」


「なんでだよ、さっくんのがよっぽど危ないことしてたんだろ、それに、昔っからオレの方が運動出来てたんだから、心配すんなって、死にゃしないし」


そんなことを言われても、望を戦わせるなんて、出来るはずがないじゃないか。


「あー、さっくんが許してくれないのはわかってたから、アリスはどうだ、オレが前に出ても良いだろ?」


「私は構わないわ、危なくなったらフォローに入るし、それにあちらはもう待ってくれないようだけど?」


「ウオオオオォオォォォォ______!」


ミノタウロスが突進してきている。僕は反射的に回避したが、望は動かず、ミノタウロスを止めようとしていた。


「望っ!?逃げて!」


直後、激しい衝突音が空間をつんざいた。


「ぐっ!?」


鼓膜までは強化出来ないようで、僕は耳を塞いだ。視線の先では、望がミノタウロスの突進を受け止めていた。


「おお、オレすげぇ」


「暢気なこと言わない!斧、来てるわよ!」


体は止まっているが、ミノタウロスの腕は拘束されていない。人の体など簡単に両断するだろう大斧が、望の脳天に襲いかかろうとしていた。


「望!」


間に合わない、望の頭が割られる。いくら治るといっても、そんな光景見たくはない。


「このっ!」


アリスがナイフを投擲した。いつもの加速を今回はナイフに使っているのか、投げたと思った時にはナイフとは思えない重い音を立てて、斧を弾いていた。


「ありがとうアリス!僕が止めを刺す!」


怯んでいるミノタウロスに近付いて、爪を突き刺す。あり得ないほど深く刺さった。そこだけは、まだ霧のままということか。

そのまま抵抗しないミノタウロスを刻めば、景色は元の夕暮れに戻っていた。

一人称だと戦闘描写がうまくいきません、もっと迫力を出せるようになりたいです。

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