嵐はそよ風の如く
翌朝、いつものように朝食と広史さん達のための昼食を作る。僕の朝食は、余ったカレーに余った炒め物を入れたものだ。命名するなら、『混沌辛子粉入り汁かけ飯』だろうか、自分で考えていて食欲が失せた。早く食べてしまおう。
「ふぁあ、っはよさっくん……ものすげえ料理作ってんなオイ」
「大丈夫、望の分は別にパンとサラダ作ってあるから」
同じメニューを広史さん達にも振る舞って、見送っている。他人にこれを食べさせるわけにはいかない。
「死ぬなよ、さっくん」
「食べられるものと食べられるものを合わせたんだから死なないよ、恐らく、きっと」
「自信吹っ飛んでるじゃねぇか!やめとけよ!」
「聞く耳持たん、全身全霊を込めていただきます!」
望よろしく、混沌辛子粉入り汁かけ飯を掻き込む。喉を通してしまえば味を感じる暇はない。そして水で追い打ちをかけるッ!
「さっくん、アンタ、漢だよ……」
不良漫画にでも出てきそうな台詞を吐きながら、望はうっすら涙を流していた。
実際問題、そこまで不味くもなく美味くもなかった。カレーの味の強さ恐るべしである。
***
毎日騒がしい朝を過ごしつつ、通学路を歩いていると、お馴染みの2人に遭遇した。
……否、もう1人、見覚えのある人物がいるような気が……
「あれって、アリス……?」
「そうよ望さん、今日からよろしく」
もう見慣れてしまった彼女の高速機動、銀髪の少女、アリスが僕らの隣にいた。
「ほう?アリス嬢は武術の心得でもおありで?」
「今、見えんかったんやけど……」
一応は一般人である彼等は、アリスの動きに面食らっている。何してるんだ、この似非外国人め。
「アリス、あんまり派手なことするのは良くないんじゃないかな」
「いーやそれよりもだ、どうしてお前がここにいんだよアリス!」
「おや、朔と望はアリス嬢の知り合いだったのかな、中々数奇ではないか」
「こーんな可愛い女の子、今までどこに隠しとったんな、水臭いなぁ」
ああ、これは良くない、話が逸れる逸れる。どうにか収束させねば。
「僕から説明させてもらうけど、アリスは僕らが帰った時に会ってね、なんというか、手助けして、くれた、というか、うん、そういう感じ、だから僕と望も正しく昨日の今日なんだ。それでアリス、君はどうしてうちの学校の制服着てて、通学路を歩いているのかな」
「あら、頭の良い貴方ならわかるんじゃないかしら、転校してきたのよ、私」
ですよね。くそぅ、もうどうにでもなれ。
「うむうむ、我等四天王を束ねる魔王と言ったところか」
「おいおい、ポッと出の新キャラに魔王は名乗らせねぇぜ、下っ端だ下っ端」
「私、そんな妙な集団に加入した気は無いのだけど」
「アタシらに声かけた時点でもう逃げられんよ~変人、変態、偏屈者の集まり、知る人ぞ知る天才集団、鷹原中学四天王なんやから」
「だから魔王とかなんとか……子供ね、まったく」
その点に関しては同意である。というか周りが勝手にそう呼び出しただけであり、僕達に罪は無い。
「それじゃ、私は色々手続きがあるから、ここで別れるわね、また後で、四天王の皆さん」
気付けば、もう校門の前だった。時間が早く過ぎるのは良いのか悪いのか、スローライフというものを送ってみたいものだ。
***
そんなこんなで教室に到着。相変わらず『色』は見えっぱなしだが、慣れというのは凄いもので、もう気分の悪さや頭痛は消えている。
自分の席に座れば、丁度先生が教室に入ってくるところだった。
教室は既に、廊下側に1セット増えた机と椅子の存在に沸いていたし、先生の第一声も、クラスメイトの期待を裏切らないものだった。
「えー、突然だが、転校生を紹介する。家の都合で、始業式から1日遅れてしまったそうだ。入りなさい」
はい、と涼しげな声が扉の向こうから聞こえた。その声が美しい女性の声だと察して、男子は歓声を上げ、女子は興味を薄めた。
満を持して扉が開き、青い瞳の少女が入ってくる。
クラスメイト全員が、言葉を失った。
「伽夜アリスです。名前の通り、ハーフで、髪や目の色もこうですけど、日本生まれ日本育ちです。これから仲良くしていただけると嬉しいです」
語尾に音符マークでも付きそうなほど明るい声だ。何故だか猫を被っているらしい。
「伽夜の席は廊下側の1番後ろだ。伽夜は慣れていないだろうから、皆もサポートしてやってくれ」
学校という日常の象徴に吹いてきた風は、いずれ暴風となってあらゆるものを掻き乱す存在感を放っていた。
今時、ハーフのことはダブルというらしいですね。半分ではなく2倍なのだ、というポジティブな考え方です。
作者としてはこちらを使いたいのですが、定着度的にハーフの方を使っていく予定です。




